糸子が善作のための洋服に頭を悩ませて仕事をしていると桝谷幸吉が店に戻ってきた。
「大将!ちょっと見せてください!…難しそうやな…やっぱり」
糸子は桝谷幸吉が着ていた背広を隅々までチェックしようとした。
「そらお前そない簡単に縫えるもんちゃうで。洋服っちゅうんは」
昼休み、昼食をとりながら桝谷幸吉は糸子に言った。
「そうか…やっぱりな」糸子が下を向いた。
しかし田中はアッパッパなら簡単に縫えると進言する。
「ありゃ女の着るもんやろ?」幸吉が笑った。
「いやウチの親父も俺も家で着てますで?ウチのオカンが浴衣解いて親父に縫いよってな
それが『ごっつええで!』て親父が言うさかいワシも嫁に縫わせたんや。ええど?アッパッパは!楽やし涼しいし!アッパッパにせいや。あれやったら縫えるやろ?」田中が言った。
「縫えます!ウチ、アッパッパごっつ得意やし!」
「ほな、ちょっといい生地使うてやな、『これやったら着てみたろか?』と思えるアッパッパっちゅうとこかの!」幸吉が言った。
「これ!ちょっと古いけどな、物はええやろ?お父ちゃんがアッパッパに使いぃって」
その日の午後、桝谷パッチ店の女将、桝谷さよが仕事中の糸子に生地を渡した。
「ええです。そんな」糸子は遠慮した。
「ええから、もろとき。あんたは洋服作れるようにならんとあかんさかい。
な?これでお父ちゃんにアッパッパ作ったりぃ、ほんで必ず認めてもらい!」
そうして糸子は善作に見つからないようにアッパッパ作りの作業に取り掛かった。
お父ちゃんに嫌がらんと着てもらえるよういろいろ工夫してみました。あんまし足が出んよう丈は長めにしました。首のところもちょっと着物みたいにしてみました。
我ながら惚れ惚れするほどの出来栄えです。
こうして完成したアッパッパを糸子は休憩中の桝谷パッチ店の従業員に見せた。
「ほぉー!!こらホンマええわし!これやったら男が着たかておかしないわ!」
桝谷幸吉をはじめとする全員が糸子の作った男物のアッパッパを褒めた。
商店街を歩いていた善作は木岡履物店の『靴アリマス』の看板を見て店に怒鳴り込む。
「あわわ…善ちゃん」凄い形相でやってきた善作を見て店主・木岡保男は腰を抜かす。
「どういうこっちゃ!説明せぇ!お前あんだけ靴は置かんって言うちょったやないけ!!」
「せやけどな…これは時流やからな」
「何が時流じゃ!そんなのに乗ってたまるかいと吠えっとったのはどこのどいつじゃい!」
「小原さん、しゃあないがな。世間の人が下駄より靴買うようになってきてやし。元々下駄が売れんかったんが試しに靴入れてみたら今日かて飛ぶように売れと。ウチのお父ちゃんもお宅もな日本人の誇りやとかそないなもんにしがみついちゃあたらあかんねん世の中変わっていってやんてや!」木岡保男の女房が険しい顔で善作に言った。
「お前!女の癖に!…堪忍やで!善ちゃん!この通りや!」木岡保男は善作に懇願した。
「…とうとうワシを怒らせたな」善作は捨て台詞をはいて木岡履物店を出て行った。
「お父ちゃん、あんなあ・・・渡したいもんがあんねん」夕食前に糸子は善作に言った。
「なんやこれ?」善作は糸子が差し出した風呂敷を解いて中身を見た。
「アッパッパや。お父ちゃんに着てもらいたて作ってん。生地かてごっついええのんやし男の人が着てもおかしないし…夏は涼しいし動きやすい…」
「おい!ほかせ!」善作は糸子の説明を聞かずに妻・千代に捨てるように言った。
お母ちゃんの事やさかいホンマにほかしてはないやろうけど返してもろたかてどうなるもんでもないしな…負けへんで!うちは次の手考えたる!
翌日、糸子は朝食を食べながら思った。
その日、善作が険しい顔で帳簿をつけていると一人の客が小原呉服店にやってきた。
「毎度!暑いな~かなわへんでこの暑さ」
「いっらしゃい!ホンマですな~浴衣ですか?」善作は愛想よく客に声をかけた。
「いや今日は足袋だけ買いにきたんや」
「そう言わんとまあ見ていくだけ見ていってくださいな」
「今日はええってホンマに!…うん?」男性客は商品と並んでいた一着の服に目をとめた。
「あ!…ああ…あ」店の手伝いに来た千代がその光景を見て慌てた。
「何ですか?それ」善作は見たことのない商品を手にしている客に尋ねた。
「すんません!それ!昨日ちょっと!すんません!」千代は二人に謝った。
「アッパッパかこれ?…なんぼや?」客が値段を聞いてきた。
「ハッハッハ!それ売りもんちゃいますがな。アホやなお前。ほかしておけ言うたやろ!」
善作は千代に言ったが男性客は、お構いなしに服を手に取ってよく見ていた。
「ほかすんやったら売ってぇな…なんぼ?…ええがなこれ。ちょうどこんなん探しちゃったんじょ。そやけどなかなか売ってへんしな・・なんぼ?」
「…いや、50銭もろときまひょか」唖然としながら善作はとりあえず答えた。
「50銭!?安いなーもらう!もらう!」客は大喜びして買って帰った。
それから小原呉服店には『男物アッパッパアリマス』という紙が貼られることになった。
そんなこんなでその夏ウチは男物のアッパッパを2日に1着の割合でこしらえるはめになりました。それが洋服作りを許す代わりにお父ちゃんが出してきた条件です。
「あれ善ちゃん!えらい変わったもん着てらし!」
木岡履物店の前で男がアッパッパを着て上機嫌で歩いている善作に声をかけた。
「知らんのんけ?これはアッパッパや!」隣に居た木岡保男が説明した。
「知らんか?これな今うちでごっつ売れてんねん!涼しい!動きやすい!
言うことないでおい!ハッハッハ!」善作は得意げに自慢するのだった。
糸子は桝谷パッチ店で一人ミシンの作業を行っていると桝谷夫婦が声をかけてきた。
桝谷幸吉は申し訳なさそうに話を切り出した。
「あんなぁ…ホンマすまんけど…店、辞めてくれへんか?
【NHK カーネーション第18回 感想・レビュー】
裁縫の事は全く知らないので、あっさり糸子がシャツやら背広やらを作るかと思ったんですがそうではないんですね。
夏だったこと、母・千代が捨てずに店頭に置いていた事、アッパッパを探していた客が店に来た事という3つが重なって上手いこといってよかったです。
恋愛ドラマとかだと『上手い事いきすぎだろ!』とかやっかんでしまう私ですが、こういうコメディ(?)ではなんだか楽しくなってしまいます。
しかし一件落着かと思ったらいきなりの解雇通告、理由はなんでしょう。
販売物を店で作っているからとか?そんなケチな大将ではないと思うんですが…
カーネーション、明日は休みで次は月曜日ですか…長い(泣)