「なんや知り合いか?」糸子の祖母・貞子が糸子に尋ねた。
「同級生や…ウチの。あかん!そんな男について行ったらあかん!」
「落ち着いて!落ち着いて!」追いかけようとする糸子を勇が止めた。
「何で!?悪い奴なんやろ!?」糸子が大声を出すと店中がざわついた。
その帰り道、糸子は奈津に腹を立てたが人の心配をしている場合じゃないことに気づく。
「お父ちゃんにミシンの話をせなあかんやん…」
「おかえり。なんや、またお父ちゃんにややこしい話あんのか?」祖母・ハルが出迎えた。
「なんでわかんの?」
「わかるわ。やめとき今日お父ちゃん機嫌悪いさかい」
「機嫌のええときなんかないやん!」糸子はハルに構わず父・善作に元に行った。
「お父ちゃん!」
「あかん」善作は新聞を見ながら答えた。
「…まだ何も言うてへんやん」
「言わんでも分かるんじゃい!お前がいきり立っている時は大概ロクでもないんじゃ」
「ミシン買うてもらいたいんやけど」
「アホかお前。そんな金うちのどこにあんねん?」
糸子は心斎橋のミシン教室に通った事、ミシンを買わなければ洋裁を教えてもらえない事、偶然会った祖母・貞子が買ってくれると言ってくれた事を善作に説明した。
「…なんやて?心斎橋?ミシン?神戸?…親に隠れて何コソコソやっとんのじゃ!お前は!
わしをこけにしくさって!なめてるのかこのぼけが!!」
善作の怒鳴声に2階にいる3人の姉妹は肩を寄せあいながら震えていた。
お父ちゃんは許してくれませんでした…ウチにはもう夢も希望もありません。
けど祭りはあります!今年も祭りがやってきました。
なにがあっても祭りだけはきっちり来てくれる。ありがたいこっちゃなあ。
糸子達が住む岸和田が“だんじり祭”一色になった。
だんじりみっとたらちっこいことで悩んでいるのがアホらしゅうなります。
祭りの最中、にわか雨が降ってきた。糸子は雨宿りをしていた吉田奈津を発見する。
奈津は仲よさそうに子供をあやしていた安岡泰蔵と妻・八重子の姿を見つけると“ふん!”とその場から離れようする。糸子は、そんな奈津を追いかけ呼び止めた。
「奈津!あの歌舞伎役者のあかんで?心斎橋で会うちゃったろ?ニヤケの喋りが変な男」
「は?…アンタには関係ないやろ?」奈津はあからさまに嫌な顔をした。
糸子は金持ちで有名人にも詳しい神戸に住む祖母が中村春太郎について言っていた事を説明したが奈津は信じてくれなかった。
「嘘つきな!アンタにそんな金持ちのおばあちゃんがおるはずないやろ?」
「ホンマにいてんねん。その御祖母ちゃんがあの男はタラシやし…」
「黙り!ウチに偉そうな利きな!なんやアンタなんか仕事もせんとプラプラしてるくせに!
うちは立派に女将修行してんねん。あんたより百倍上等や!」
「なに!?もっかい言うてみい!」糸子は気にしていた事を言われ逆上してしまう。
「何回でも言うたる!この出来損ないのすねかじりが!」
「すねかじりちゃうわ!」糸子と奈津がとっくみあいのケンカが始まる。
「やめー!!!」ケンカを見つけた泰蔵が二人に割って入った。
奈津は泰蔵と目が合うと『きゃー嫌ー!!』と逃げてしまうのだった。
祭りの夕暮れ時、桝谷幸吉はタバコをふかして休憩していた善作に気がついた。
「あのう…ワシ、糸子さんに勤めてもらってたパッチ屋です」幸吉は挨拶した。
善作と幸吉は並んで腰を下ろし、話しはじめた。
「ホンマ、糸ちゃんにはすまんことしましたなぁ…」
「不況ちゅうのはホンマえげつないさかいなぁ…ようわかります」
「言えた義理ちゃいますけど…糸ちゃんみたいな娘がいてたらごっつい羨ましいですわ」
「いやいや実際、うちおったらたまりまへんで。次々と変な事ばーかり言い出しおって」
「将来有望です。ワシかてこれまで何人も職人雇てきてまんのや。あれは女にしとくのはもったいない。腕もある頭もある先も読める。呉服屋のおやっさん捕まえてなんでっけど、あの糸ちゃんがあんだけ熱あげるんやから洋服ちゅうんのはホンマこれから主流になるんやろとワシもこの頃思てまんねん。こない商売が上手いこといけはへんわ。自分も年取ってくるわいうときにあんな頼もしい子供が目の前ウロチョロされちゃったらそんなええことあらへん!」
「おおきに。…そない言うてもろうて」善作は幸吉に頭を下げた。
「糸ちゃんが娘やったら、店任せますわ。ワシなんぞよりよっぽど儲かりまっせ」
幸吉が言った事を善作は真剣に聞いていた。
ある日、善作は木之元電気店を訪れた。
「あの…こないだ来ちゃったやろ?なんや偉そうな…ミシンの女や、ミシンの先生や」
「根岸先生の事か?」
「せや!あれ、今、心斎橋にいてんのか?」
「そうや心斎橋のステンガーミシンでミシンの講師やっておら!」
「場所分かるか?わし連れて行ってくれ!」善作は栄作に頼んだ。
「おう!行こ行こ今度!」
「今度ちゃう!明日や!!明日、そのステンガーミシンに連れて行ってくれ!」
用事があるという栄作に強引に頼む善作だった。
「売りもんのために仕入れた古着や、今日中に修繕やら直し全部しとけ!」
翌日、善作は栄作と共に糸子に山ほど仕事をいいつけて心斎橋に向かった。
善作は寄り道もせず真っ直ぐ根岸のいるミシン教室へ向かう。
偵察させた栄作から根岸が教室にいることを確認すると善作は勢い良く教室入った。
「こんにちわ」根岸はやってきた善作に笑顔で挨拶した。
「…こんちわ」善作は先ほどまでの勢いは無くなり言葉に詰まってしまう。
【NHK カーネーション第21回 感想・レビュー】
さすが大将ですね。あそこまで糸子を買っていたとは。
善作も「不況」と「自分の商才」を考えたら幸吉の言うとおり糸子に任せてしまったほうがよっぽどいいのかな?って思ったんでしょうかね。
今日の善作は大きな分岐点をむかえたっぽい感じが2回しました。
まず糸子が夜中じゅう泣いているのを複雑な表情で聞いているシーン。そして幸吉に糸子を褒められたシーン。
二つとも善作の迷いみたいなものが表情に出ていた流石、小林薫さんは演技上手だなって思いました。普段はナヨって役が多いのですが、見事に善作にはまってます。
最後の根岸先生に対する態度は緊張ですよね?