「えーと…どこかで…」
根岸は善作を思い出せない様子だったので善作は木之元栄作を呼んだ。
「木之元でございます!こっちは小原呉服店の主人でこないだはお世話になりました」
「あー岸和田の!それは気付かずに失礼いたしました」根岸は善作に詫びると
「本日は先生にお願いごとがあって岸和田から出て参りました!
時間をとってもらえませんやろか!このとおりです!」善作は根岸に頭を下げた。
善作は根岸を待つ間、教室の近くにあるパーラー浪漫堂で一人座っていた。
善作は生まれて初めてコーヒーを注文するとちょうど根岸が現れた。
善作は運ばれてきたコーヒーを少し口に入れると満足そうに笑った。
根岸はそんな善作をみてクスリと笑みをこぼした。
「お願いっちゅうのは…娘に洋裁を教えちゃってくれませんやろか?」善作が言った。
「糸子さんにもお話をしたんですけれども私はここではあくまでもミシンの講師なんです」
根岸は申し訳なさそうに善作に説明するが善作は手で静止させた。
「わかってます!それは先生ほどのお方、立場も事情も山ほどおありでっしゃろ?
そやから勿論それなりのお礼をさせて貰うつもりで来ました。
そんなんいうたら大げさなようやけど…それくらいの覚悟でお願いに上がりました」
善作は一呼吸置いて続けた。
「情けない話、呉服屋ちゅう商売はもう先ありませんわ…世間の言う通りこれからは洋服の時代です。糸子は言うたら行き当たりばったりの勢いと馬力だけの娘です。せやけど洋服を作りたいちゅうのだけはあれが十の歳から1日として変わりません。
ミシンかて覚えたい一心でパッチ屋に努めて3年…きっちり一人前になりよった。
正直、呉服屋の親父としては意地張りたい事もあります。けど、もうそろそろ降参ですわ。
これからワシは、あいつの洋服作るっちゅう夢を助ける側に回らなアカンと思う様になりました。親としてわしのできることは一つ。家財一式売り払うてでも先生の教えをあいつに与えちゃる。それですわ。いや、それしかないんですわ」
善作はそう言うと椅子から立ち上がり、床に膝をついた。
「先生!どうか娘に洋裁を教え…!」
根岸は善作が土下座をしようとしたので慌てて止める様に言った。
その夜、善作と木之元栄作は夜遅く、酔っ払って帰ってきた。
善作は寝ていた糸子達姉妹を起すとコーヒーは美味い、いつか飲ましちゃる等、機嫌よく話すのだった。
翌日、糸子の幼なじみの安岡勘助が勤めていた紡績工場を首になった事を糸子は知り、安岡家へ行く。しかし勘助の母から勘助はお菓子で働くことになったと聞かされる。
糸子はお菓子屋へ行き、そこで明るく働いていた勘助に声を掛けた。
「何しとん?お前」
「何て。見たらわかるやん。今日から菓子屋の兄ちゃんや(笑)」嬉しそうに勘助は答えた。「昔、お前が団子かっぱらっておっちゃん困らせた店やんか。ようしゃあしゃあと店番なんかして恥ずかしないんけ?」
「それがおっちゃんな手ついて謝ったら泣いて喜んでくれな…『あのごんだくれが、わしを助けてくれる歳になったんけ?』というてくれて…俺もおっちゃんにできるだけの罪滅ぼししたろおもってんやんよ」
勘助は性に合っていて工場をクビになってよかったと満足そうに笑うのだった。
糸子は帰宅すると玄関には見慣れない草履があり二階からは父・善作の謡が聴こえた。
「謡か…ふん。あんなもん習うて何がおもろいねん。ホンマ世の中、暇人多いな」
自分と同じ境遇になったと思った勘助の再就職を喜べないでいた糸子にハルが言った。
「おばあちゃんは何も話聞いてへんで」
「話?」糸子はハルが何を言っているか理解できなかった。
「とぼけんな!あんないけすかんおんなうちに泊めるやなんて嫌やさかいな!」
すると母・千代が思い出した。
「糸子、お父ちゃんが帰って来たら上にこいって挨拶に」
「挨拶?謡のお弟子さんに何で挨拶?」
「ただのお弟子さんちゃうやん。あんたのミシンの先生や」千代が嬉しそうに言った。
「今月いっぱいで心斎橋の教室は一旦終えて、来月から東京で教える事になったの」
部屋にやってきた糸子に根岸は説明した。
「…東京帰ってもまうんですか?」糸子は残念そうに尋ねた。
「ええ。でも東京に帰る前に会社から一週間ほど休みを貰いました。その一週間でここにお世話になってあなたに洋裁を教えます」
「は?」
「代わりに私はお父様から謡を教えて頂くの」
「何でそんな事に?」糸子は経緯がわからず青天の霹靂といった感じだ。
「細かい事はお話し出来ません。それがお父様とのお約束です」根岸はニッコリと笑った。
「そんなん!そんなん!ウチ、ホンマ頑張ります!おおきに!手加減せんといて下さい!
うちのこと、しごきまくって下さい!何が何でもついていきますよって!」
そういって大興奮する糸子の横で善作は興味のなさそうな顔をつくっていた。
根岸が一週間滞在するという事で、糸子達は準備に大忙しになった。
千代は口に合うようにと洋食を八重子に学び、糸子は布団を打ち直しをした。
しかし一人、祖母・ハルはへそを曲げたままだった。
そして根岸が小原家に滞在する日がやってきた。
商店街を颯爽と歩いてやってくる根岸を糸子達は出迎えた。
この格好ええ女の人、今日からうちに洋裁を教えてくれる先生なんやで!
うちは商店街中に叫びたい気持ちでいっぱいでした
【NHK カーネーション第22回 感想・レビュー】
善作、イカスです!最高です!ヒューヒュー!愛がありますよ。
善作が主役に交代したドラマって言ってもいいくらい善作が映えるエピソードでした。
昨日、桝谷幸吉に言われた事というのは、実は『善作は前からうすうす気づいていた事』だったのかもしれないと思いました。幸吉にそのものズバリを言われてしまったので、もう降参したんだと思いました。
応援する側にまわった善作、いやー大きく物語が動き始めましたね!
それにしてもハム太郎は、あの店大好きですね。
今日も後ろで女の子といちゃいちゃしてましたね(笑)