糸子によって運び込まれた制服を百貨店の男性従業員数名がチェックしていた。
「問題ありません」従業員達が支配人・花村に報告した。
「いやあ、ホンマによう間に合わせてくれましたね、おおきに。ご苦労さん」
報告を受けた花村はソファで待っていた糸子に話しかけたが糸子は居眠りをしていた。
「小原さん。小原さん!」
「え?あ、どないですか何かまずいとこありませんでしたか?」
「はい。もうはよ帰って寝なさい」花村はニコリと笑った。
糸子は気が抜けてしまい、帰りの電車の中でも寝て、帰宅してからも晩御飯も食べずに朝まで寝てしまうのだった。
―翌朝(1月3日)3姉妹を連れて糸子は心斎橋百貨店を訪れた。
「あけましておめでとうございます。心斎橋百貨店開店でございます」
ドアガールが開店と同時に新年の挨拶をした。
「いらっしゃいませ!おめでとうございます!」
数日前に支配人の所へ案内したドアガールが糸子に気が着き満面の笑顔で出迎えた。
店内を糸子が見回っていると婦人客が支配人・花村に話しかける場面に遭遇した。
「制服変わったんやな!?」婦人は物凄い勢いで支配人に質問した。
「…はい」花村は緊張して客の次の言葉を待った。
「えらいええわ(笑)」。
「ありがとうございます」花村は糸子に指で小さくOKマークを作って見せた。
帰りの電車の中-富久箱(福袋箱)の中身を想像する三姉妹の隣で糸子は考えていた。
正月が明けたら空っぽになった店で家族7人、どう食べていくか考えんとあきません
ま、明日の明日考えようか
雨が降っている日、糸子は勘助や八重子に世話になったお礼にと安岡玉枝にお土産を私に安岡髪結い店を尋ねた。すると店にやってきていた同級生の吉田奈津と遭遇する。
糸子が雨の中、家に帰ろうと歩いていると吉田奈津が後ろから木の実をぶつけてきた。
「何すんねん!今!投げたやろ?」
「…おばちゃんが言うてた百貨店の仕事てなんやねん?」
糸子は心斎橋百貨店の制服の仕事が上手く行った事を説明した。
「は!しょうもな!」
「あんたこそ、あのアホの歌舞伎役者とはどうなん?」今度は糸子が尋ねる。
「あんたいつの話してんよ。とっくに切れたわ。あんなドン臭い男」
そして奈津は、吉田屋の若女将になった自分は婿選びが大変だと説明した。
「あんた、泰蔵兄ちゃんみたいな婿がきたらいいのにな」糸子が言った。
「あほ!あほあほ!不細工!」
奈津は木の実を再び糸子にぶつけるとスタスタと歩いていってしまうのだった。
百貨店に制服を問題なく納めたら腕が見込まれて洋裁の仕事がどんどん回してもらえると計算していた父・善作だったが仕事は入ってくる事はなかった。
糸子は反物が一つも無い、ミシンと小物が少し売っている店内を掃除しながら見渡した。
「何屋やねん…これは」
「糸子姉ちゃん。今ちょっと話ええ?」
卒業を二ヶ月後に控えていたた静子が糸子を外(井戸がある場所)に呼び出した。
「そういえばいつから働きに行くんや?」
糸子は成績優秀で就職も既に決まっている静子に嬉しそうに尋ねた。
経営が苦しい小原呉服店にとっては静子の給料は助かると糸子は思っていたのだが…
「…その事なんやけどな…就職せんとこか思て…」静子は糸子の反応を見ながら言った。
「就職せえへんて…なんでや!?」
「姉ちゃんの手伝いしたい!よそで他の人手伝うより姉ちゃんの手伝いしたいなって」
「アホか…アホか!!」糸子はくみ上げた井戸の桶から水を静子にかけた。
「何で怒るん?」静子が困惑して尋ねた。
失敗や。大失敗パイです…ウチもオオバカですがこの子もどんだけノンキやねん
妹らに気苦労させたのうてお金の話は一切してこなかったを糸子は悔やんだ。
「家は苦しいんや!もう呉服屋でものうなったし、まだ洋裁屋にもなられへん!切羽詰まってねん!四の五の言わんと会社働きに行き!それかどないしてもうちの手伝いしたいちゅうやったら自分で外回って洋裁の仕事とってき!姉ちゃんに仕事が入って来て初めてあんたも手伝いができるんや!」
「…はい」糸子に思いっきり叱られると静子は立ち上がって歩き出した。
「どこいくねん!?」
「仕事、とってきます」そう言うと静子は走り去ってしまう。
まあ、ええわ、商売がどんだけ厳しいもんか、あの子も勉強せなならんのです。
その小一時間、静子は、リアカーを引いた男性を小原呉服店に連れてくる。
男性は、パッチを作ってくれる店を何十件と捜し歩いているがどこも引き受けてくれないと事情を説明した。パッチを縫える糸子は引き受ける事にした。
「で、何枚用意します?」
「きっかり百枚!明日の朝までに!」
「ひ、百枚!?」糸子はあまりの多さに驚いた。
「あぁ…やっぱり無理かいな」男性はがっくりと肩を落とした。
「…いや、やりましょう!」糸子は見るに見かねて引き受ける事になってしまう。
「お前なんちゅう仕事引き受けてんじゃ!朝までに百枚てどう考えても無理な話やろ!?」
家に帰ってきて事情を聞いた善作が糸子に言った。
「しんどいけどな…どないかなるかもしらん、パッチやったら手が覚えてるし」
善作を見ず糸子は静子と黙々と作業を開始していた。
「仕事ちゅうのは受けたらええちゅうもんとちゃうんやど?」
「…けどお客さん、困っちゃったし」
「そやからなんや?仕事はな、人助けちゃうんじゃ!お前が無茶な仕事引き受けてとばっちり食らうのはウチのモンなんじゃ!1人ではやれんってこないだの百貨店の仕事でようわかったやろ!?お前が仕事選ばんとどないすんじゃ!!」善作は大声を出した。
「そやけど今の小原呉服店は仕事を選べる立場ちゃうよって!」
「…なんやと?」
「無茶な仕事かて引き受けていかな家族7人食べて行かれへん!」
「勝手にせい!分かった!お前の理屈はようわかった!ふふーん!結構な事ですね!?
ほな終いまでお前1人でやれ!静子、手伝うな!
糸子が勝手に1人で引き受けた仕事や。一人でやらせ!」
「けど、うちが姉ちゃんに…」
「やかまし!やめとけ」善作は静子の腕を引っ張り無理やり二階に行かせると糸子が作業していた生地の上を歩いて奥の部屋に行ってしまう。
糸子は、一人厳しい顔で作業を続けるのだった。
【NHK カーネーション第29回 感想・レビュー】
一難去ってまた一難です。またVS善作です(笑)
今日まで百貨店の制服を無事納品できるかできないかという問題を抱えていたのに、解決した途端に新しい問題が…明日解決するのでしょうか?
今回は善作の言い分ももっともです。100枚なんて1日で何とかなる数ではないでしょうに…
24時間あったとしても15分に1枚以上を完成させないといけないペースです。
…うーん、今回は厳しいかな!?