『金は要らん…喜んでくれたらそんでええ』
なかなか言えん事言うてうちは自分を立派やと思いました。
けどよう考えたら、なんでそれがなかなか言えん事いうたら
そんなん商売とちゃうからでした…
「全部返してもうた。お前が商売すんのは百年早い!もういっぺん、外に働きに行け!
よその店で一から修行してこい!」
善作は回収してきたチラシを叩き付け、表の張り紙もバリバリと剥がした。
― 糸子は善作の見つけてきた紳士服店で働く事になった。店の名前はロイヤル。
女物とは違い、男物の洋装は世間に広まって来ておりこの店も繁盛していた。
しかし、この店の店主はとても威張っており糸子は嫌いだった。
「入れ直せ」糸子が出したお茶を一口飲むと店主は糸子に言った。
「薄かったですか?」糸子が尋ねるが「入れ直せ」としか言わない。
「けどどないまずいんか言うてもらわんと…」
「ええから入れ直せ!」店主が繰り返すので糸子は諦めた。
威張っている店主も嫌いだったが糸子は働いている人達も苦手だった。
糸子がお茶を出しても従業員達は無反応、店主同様に糸子は感じが悪いと思っていた。
しかし、一人だけ愛想のいい男がいた。
「おおきに」とある男性従業員は糸子が配ったお茶に礼を言った。
その男は糸子と目が合うと会釈し笑顔を見せた。
名前、何やったかな?この人・・・確か・・・村田?
「おい川本!」その男性従業員が呼ばれたのを聞いて糸子は思い出した。
あ、川本や
― 夕方、糸子が仕事から帰ってくると祖母・ハルと髪結い屋の安岡玉枝が話しこんでいた。
「最近、勘助から何か聞いてるけ?」玉枝が糸子に質問した。
「ううん、最近顔見てへんなあ」
「そうけ…どうもな、変な所でも通てんちゃうかと思うねん。それが何せよう出てって夜遅うまで帰って来えへん。家に賃金を入れよらへんしな…『なんでや?』って聞いたら『菓子屋の主人が賃金くれんようになった』ちゅうねん」
「玉枝さん!それおかしいで!」ハルが言った。
「糸ちゃん、ちょこっと聞き出してくれへんやろか?」玉枝が糸子に頼んだ。
「おばちゃんに心配かけよって!うちもアホやけどあいつもたいがいやな!」
糸子はそう言うと勢い良く立ち上がり、玉枝が止めるのを聞かずに店を出て行った。
「ちょっととっ捕まえてくるわー!」
カフェで働いている勘助の親友の平吉を糸子は訪ね勘助の事を問いただした。
―日も暮れた時間、看板にカンカンホールと書かれたダンスホールに安岡勘助はいた。
勘助はダンスチケットを握りしめホール脇の椅子に腰をかけダンスしている女性をじっと見ていた。曲が終わると勘助はその女性のもとに駆け寄った。
「サエちゃん…」勘助は緊張しながら女性に声をかけた。
「はれ、いらっしゃい」サエと呼ばれた女性は勘助に笑顔で応えた。
別の男性客が割り込んでサエにチケットを渡した。
「勘助ちゃん、堪忍。次の曲で」サエはその客とダンスを始めてしまうのだった。
席に戻ろうとした勘助はそこに糸子が睨んで座っていることを知った。
勘助は何も言わず、恐る恐る糸子の前の席に座った。
「お前、どういう…」
「堪忍!俺が悪い!ホンマ堪忍!」糸子が言う前に勘助は謝った。
「そやけどな、しゃあないねん、好きになってもうたんや…」
勘助は後ろで踊っているサエを見たので糸子は全てを理解した。
「ホンマは菓子屋から賃金もうてんやろ?全部ここで使てしもたんか?菓子屋のおっちゃん、悪者にしてオバちゃんに賃金渡さんとこんなところで女と踊って喜んじゃったんか?」
勘助は頷いた。
「帰るで?」糸子は立ち上がった。
「今、帰ったら俺、サエちゃんと踊る資格のうなる気ぃする!」
「お前、どこまでアホやねん…初めからお前に資格なんかないんじゃ!
お前はまずおっちゃんに義理果たす。おばちゃんにに孝行する。それが何より先なんじゃ!」糸子は声を荒げて勘助に言った。
「けどそんなことしちゃったらな…サエちゃん、他の男にとられてまう」
バコ!半泣きになった勘助の頭を糸子はグーで叩いた。
「このボケナス!!腑抜けんのもええ加減にせい!どの頭がそこまで腐っとうねん!」
糸子は勘助に馬乗りになって叩きはじめると他の客から悲鳴があがった。
そして糸子は従業員に取り押えられてしまう。
「ふーん…珍しのう。まあ、うちで起こる喧嘩ちゅうたらほとんど痴話げんかや。
踊り子の取り合い、客の取り合い、旦那が入り浸ってんのを嫁はんが連れ戻しに来る。
親孝行せなならんか…修身で習たのう…」
カンカンホールの外にあるテラスで支配人が勘助と糸子に言った。
「こいつがここで踊るんは100年早いですわ」糸子は怒りが収まらない様子で言った。
「姉ちゃん、なかなかええ性根しとるな。うちで雇たろか?」支配人がきいた。
「いや、うちはもう洋裁の職人やってますよって」
糸子が断わると隣でつまらなそうにしていたサエが驚いた表情で糸子の顔を見た。
その後、支配人は『金輪際、勘助を店に入れない、踊り子とも会わせない』という約束を糸子とかわした。泣いている勘助を連れて帰っていたが糸子は慰める気にならなかった。
そこへ偶然、勘助の兄・泰蔵と出会う。勘助は慌てて泣き顔を隠すように後ろを向いた。
「どないしたんや?」泰蔵は糸子に勘助の事を尋ねた。
糸子は隠れるようにしていた勘助を泰蔵の前に突き出した。
「なんも聞かんといちゃって…そやけど一発殴っといちゃって」
糸子は泰蔵に言い残し、暗い夜道を一人、歩いて帰るのだった。
【NHK カーネーション第33回 感想・レビュー】
昨日、おお泣きしていた善作、一変して糸子を紳士服の店で働かせ始めたけど、再就職はアッサリでした。手に職があったし紳士服は景気がよかったからでしょうかね。
もう祖父・松坂家で働いてもええんちゃうかな?とも思いますが、まあ紳士服も作れるようになったら鬼に金棒って善作の計らいなんでしょうか。
それはそうと奈津の父ちゃん、心配です。…奈津の結婚もどうなったかわかりませんし…山本さんのお嬢さんの洋服も断わったんかな?
とまあ不明な部分を残しつつ、今日の糸子は痛快でした。
しょぼくれて自分の席に戻ろうとした勘助を見る糸子のあの顔、超怖っ(笑)
しかも、そこからのマウントポジションです。これは子供時代から得意でした。
そりゃ、その道っぽい人もスカウトしたなります(笑)