「こんな暑いのにわざわざ外で食わんでも…はい」
ロイヤルの店の裏で休憩中だった糸子に川本がリンゴを手渡した。
「…中は息詰まるよって…おおきに」糸子は礼を言った。
糸子は踊り子・サエにドレスを作る事に気乗りしないと打ち明けるが川本は大きな仕事に繋がるとアドバイスをする。
「ヘタしたらダンスホール中の踊り子がアンタんとこ注文しに来るかもしれへんで?
岸和田にドレス作れる店なんかまだ一軒もないんや。他の踊り子連中が『うちも!うちも作って!』って、そらごっつい事になんで」
「…そっか。…ホンマですね?」沈んでいた糸子の表情が明るくなった。
「そんくらいの話やなかったら大将が婦人服なんか受けるかいな」川本が林檎をかじった。
川本さん、ええ話してくれました。おかげでウチの迷いは吹っ飛びました。
絶対、絶対成功さしちゃります。
糸子は家で作業するため早めに帰宅し早速祖母・貞子から借りたドレスを解体しはじめた。イブニングドレスを作るのが初めての糸子は安い生地を使って見本を作る事にした。
ハルのお許しもあり、深夜まで作業ができた糸子はその日の夜に見本を完成させる。
朝、糸子が目を覚ますと昨夜作った見本を着た母・千代が鏡の前で踊っていた。
「糸子これな…このままだったらあかんで?」
千代は糸子にイブニングドレスは体にピターと合わせて作らないといけないことを教えた。
そして千代は見本を着たまま部屋の中を踊ってみせた。
3姉妹と糸子は千代のダンスに釘付けになった。
「なんやこの辺が引きつっとったやろ?」
「見てなかったそんなん」
「踊り子さんが着るんやったら踊ってる時が一番よう見える方がええよ」静子が言った。
「そやけど何でお母ちゃん。ドレスの事とかよう知ってんの?」
食器を洗っていた千代を捕まえて糸子は尋ねた。
「若い頃、よう舞踏会行ったよってな」
「ホンマけ?イブニングドレスの事もしっちゃったん?」
「そら何着か持っとったよってな」
「そやったん。灯台元暗しやな…」
「あの頃の洋裁師さんいうたらみんな異人さんやったわ、その人が家来てくれて…」
糸子は洋裁師達がどうやって体のラインに合わせてドレスを作ったかを千代に尋ねたが千代は忘れてしまっていた。
糸子は祖母・松坂貞子に電話をしてイブニングドレスの作り方を聞いていた。
「ほな何回も仮縫いし直すちゅうこと?」
「そうそう何回も何回もあっち詰めこっち足しやってくれるわ」
「そうか、わかったおおきに…おばあちゃん、風邪治った?」
「ああ。治った治った。もう心配いらんで」
「…おばあちゃん、長生きしてな」
「うん…ありがとうな。グス」貞子は思わず涙ぐんでしまう。
よっしゃ!やっぱ何回も仮縫いで会わせて行くんやな。
ちゅうことはあの子に何回も会わなあかんのか。糸子は憂鬱になった。
ロイヤルの試着室で糸子はサエに完成した見本を着せた。
「いやーごっつええやんこれ!(嬉)」鏡に映った姿を見てサエが喜んだ。
「そらよかった。けど、これ見本やさかい、今日もう一回体とよう合わせてから…」
「もうええわこれで!これこのまんま売ってくれたらそれでええ!」
「こんな生地、ドレス用とちゃうよって…もっとちゃんと作らんと…」
テンションが上がっているサエに糸子は説明しようとするが
「ええって言うてるやろ!ごちゃごちゃ言わんとこれで売りよ!」サエは言って聞かない。
「嫌や!あんた最初なんぼかかってもええからエエもん作ってちゅうたんちゃうんか?」
「そやから誰も安せえとはとは言うてへんやんか!これで高売ったらエエんやろ?」
「こんな安物、高うなんか売れるかいな!うちの仕事はな詐欺師ちゃうんや。洋裁師や!」
「はあ?強情やな!」サエは糸子を睨み返した。
「おい小原!その…お客さんに失礼いうなよ」部屋の外から店主が恐る恐る声をかけた。
「わかってます!あっち行ってて下さい!」
「女同士の話なんや!立ち聞きせんといて!」サエも興奮して店主に注意した。
「あんたかて玄人の踊り子なんやろ?うちは玄人の洋裁師や。
あんたがダンスホールの真中で踊った時に一番映えてて綺麗に見える…そういうドレスを作らなあかんやん!わかるやろ?」糸子は自分より背が高いサエを下から睨んだ。
「…ふっふっふ(笑)アホか。めでたいなあ…アンタ。あんなとこで踊ってる踊り子がそんな立派な玄人なわけないやろ?男とくっついて適当に踊って金貰う…そんだけや」
サエは薄笑いをしながら糸子に言った。
「…ほな帰り」糸子が低い声で言った。
「え?」
「そんな女が着るドレスうちは作りたない。うちは本気で作るんや本気で着てもらわな嫌あんたなんかに作れへん…さっさと着替えて帰って」糸子は試着室を出て行った。
サエは一人試着室で呆然と立ち尽くすのだった。
【NHK カーネーション第35回 感想・レビュー】
今日のカーネーションは千代ママ踊るし、貞子祖母ちゃん回復するし、糸子キレるしと凄い凝縮されたエピソードで15分があっという間でした。
それにしても今日は本当に朝から爽快な展開。この感覚は宮崎あおいさんの大河ドラマ『篤姫』に似てるかも。あのキレ方…惚れてまうやろです(笑)
“シャー”ってカーテン開けて部屋を出て行く後姿、格好良すぎです。
明日サエが謝るのかな?その前にロイヤルの大将に怒られる?
あと最初のシーンで川本が「そんくらいの話やなかったら・・・」って所、どう思いました?ロイヤル大将、途中、書類見て頭抱えてませんでした?(川本の買いかぶり?)
その川本役の駿河太郎って笑福亭鶴瓶さんの息子だったんでね(今ごろ知りました)
目が似てるというレベルでなく同じですね(笑)