糸子が店の玄関にある荷物に被せてあった布をめくると『小原洋裁店』と書かれた大きな看板が姿を現した。糸子は思わず目を丸くする。
「…これがお父ちゃんのケジメのつけ方や。黙って受けちゃり」祖母・ハルが言った。
大きい看板を糸子は屈んでよく見た。
「どこいったん?お父ちゃん…」
「隣の大松町や。神宮司さんの伝でな。質屋の店主になる事になったんや」
「お母ちゃんらは?」
「質屋の奥に家がついちゃあるし。そこに暮らす事になる。
あんたは7人の家族を養うことあらへん…うちとアンタの2人分で十分じょ」
「うちは嫌や!家族がバラバラになんのなんか嫌や!」糸子は泣きそうになった。
「わかっちゃりて。お父ちゃんかてなしんどかったんやし。あんたの稼ぎで食わせてもらうんが、ずっーとな…」
ガランと家は糸子にとって寂しくて心細くて…降っていた雪まで怖くなった
ドンドンドン!夕食の後片付けを終えた時刻に玄関の扉を誰かが叩いた。
「…いぃ~とぉ~こぉ~開~け~てぇ~…」
か細く不気味な声がしたので糸子が恐る恐る扉を開けた。
「おかあちゃん!?」糸子は雪が積もった千代が立っていたので驚いた。
「寒かったぁ~!いやぁー!」千代は勢いよく家に入った。
引越しの終わり頃、善作は糸子が心配になり家に行くように言われたと千代は説明した。
仕事帰りを出迎えるはずだったが道に迷ってしまい、夜遅くになったことを打ち明けた。
「はあ…」千代は道に迷って疲れたらしく、玄関で腰を下ろした。
「あ!…いや、ごめんな(焦)…これ、これかいな看板?」
腰を下ろしたのが看板だと千代は気づいた。
「エヘヘヘ…ホラ!」糸子は布を照れくさそうに取った。
「まあ!ええやんか!?小原洋裁店!」千代は大喜びした。
「お母ちゃんの顔見たら、やっとこの看板喜んでええ気ぃになってきた」糸子が言った。
「喜びいな!なんぼでも!あんたの看板や!とうとう小原洋裁店ができるんやで!」
「うん…そやけどな、うちのせいで…家族がバラバラになってしもうたんや。お父ちゃんがずっとしんどかったんやて思うとな…ウチはなんちゅうことをしてしもうたんやろ!
みんなにどないして謝ったらええやろ思たらな…」糸子は泣き出した。
「アホやな~そんなことを思わんでええ。あんたはガンバったんやし
お父ちゃんやて静子やらかてあんたが悪いなんてちっとも思てへん!」
大泣きする糸子を千代はギュッと抱きしめた。
それからしばらくして、ちょうどサクラが咲いた頃、岸和田商店街の人達が注目する中、」小原洋裁店の看板の取り付け作業が行われた。
「姉ちゃん!」静子達が糸子に駆け寄ってきた。
糸子は後ろからやって来た善作の元に歩み寄った。
「お父ちゃん…うちな…」久しぶりに会う善作に糸子は口ごもってしまう。
「お前…肥えたやろ?ちょっと見んうちに顔パンパンや!」善作は嬉しそうにからかった。
「肥えてへんわ!」
「おーい!酒、持って来たぞ!」作業中の木之元栄作達に善作は声をかけた。
「それ糸ちゃんの開店いわいちゃうんけ?」
「かめへん!かめへん(笑)」
「開店、おめでとうさん!」糸子に靴屋の木岡保男が桜の枝を渡した。
「ほんま、おめでとうさん」木岡の妻、栄作の妻も糸子にお祝いの言葉をかけてきた。
すると作業を見守っていた商店街中がおめでとう!と拍手した。
「おおきに!おおきに!ウチ頑張るさかい!見とってな!」糸子は涙ぐんで感謝した。
そいでも商売っちゅうんはそんな簡単なもんやありません。
店開けてすぐ駒子(芸妓)とサエ(踊り子)が来たが客足は疎らで誰も来ない日もあった。
生地屋で糸子のサービスを広めてくれた長谷ヤス子達が小原呉服店にやってきた。
ヤス子達は末松店主に糸子の居場所を聞いてやってきたと説明し、生地を切ってくれないかと末松商店で買った生地を差し出した。
「そら堪忍して下さい…ウチはもう生地屋の店員やちゃうんやさかい」糸子は断わるが
「そんなケチくさい事いわんと頼むわ!アンタとうちらの仲やんか!ほれ土産にわらび餅かて買うて来たんやでぇ?」結局、押し切られてしまうのだった。
― そんなある日、久しぶりの珍しいお客さんが小原洋裁店を訪ねてきた。
「おっちゃん!」糸子は叔父・松坂正一の姿に喜んだ。
「ハッハッハ!糸子!見たでぇ!立派な看板があがっとうやないか!
どないや?うまいこといっとうか?」
「ぼちぼちや(笑)」糸子が答えた。
「ぼちぼちで上等や!出だしはそんなもんや!」
「正一さん!どうぞどうぞ!」祖母・ハルが正一の来店に気づき中に入るよう促す。
「どうも…いや…(汗)糸子、ちょっとコーヒーでも飲まへんか?」
正一は言いづらそうに糸子を岸和田にできた喫茶店に連れ出した。
店に到着するとウエイターで勘助の友人・佐藤平吉が緊張して出迎えた。
「いらっしゃい!お連れさん、あっこです」
すると店の奥に座っていたスーツ姿の男が立ち上がり、振り返った。
「川本さん!?」糸子は男がロイヤルの兄弟子・川本であることに驚いた。
「久しぶりやな。開店おめでとうさん(笑)」川本は赤いカーネーションの花束を渡した。
「…おおきに」糸子は事態がうまく飲み込めないままとりあえず礼を言った。
その後、テーブルに座った3人、川本と正一は珈琲、糸子はゼンザイを注文する。
そやけど…なんや?おっちゃんと川本さん…一体、何やこれ?
糸子は正一と川本が自分を見てニコニコしているのが気になった。
【NHK カーネーション第43回 感想・レビュー】
予想通り善作が栄作達に用意させていたものは『小原洋裁店』の看板でしたね。
祖母・ハルから善作の事情を聞いたら、善作の意地というか娘を想う気持ちというか…素晴らしいです。
糸子の反抗→善作キレる→糸子泣く→善作アクション!→糸子感動→上手く行く
って、いつものパターンなのに、毎回違う感動があります。
「お前肥えたやろ?」って善作が照れ隠しでからかう事もGOODです。
加えて、母・千代が道に迷って夜になってしまうところや、看板に腰を下ろす天然ぶりも糸子の両親が糸子を想う心の強さを引き立ててくれているのよな感じがしました。
とにかく今回は善作が下した決断に感動しましたよ。
さて、川本さんと正一叔父さんが知り合いというなかなかの終わり方でしたが何繋がりなんでしょうか?まさかのロイヤル店長つながり?
「ソウナンダヨ~」ってロイヤル店長が再び出てきたら楽しいんですが(笑)