「ちょっとな…膝を休めてんやし…ちょっと休めたらすぐに歩けるようになるよって」
糸子は膝を抱えながら苦しそうに奈津に伝えた。
奈津は近所の戸を叩いたが誰もいなかったので糸子をおぶって運ぶ事にした。
「悪いな、何や重たないか?」奈津に背負われた糸子がすまなそうに言った。
「重たいわ!どんだけ肥えてんよ!」奈津はたまらず文句を言った。
「最近、おかわりしてへんさかい痩せたはずなんやけどなぁ」
「この貸しは倍にして返してもらうからな!!」
「しゃべりすぎたら息きれんで?(笑)」
「うるさいわ!!」
― 吉田屋では祝言は始まっており祖母・ハルと千代は糸子の事を心配していた。
「なんぼなんでも遅すぎるで。花嫁来ん間に終わってしまうで?」
「呼んできましょうか?」千代が席を立とうとした。
「いや!花嫁の親までおらんようになったらマズイ。静子らに走らせ!あのアホが!」
「任しといて!あ~!いってくら!」
糸子を迎えに行くよう玉枝に言われた勘助が吉田屋の戸を開けた。
するとちょうど糸子と奈津が扉の外に立っていたので玉枝と八重子は驚いた。
「糸ちゃん!?奈っちゃん!?」
「…この…豚!」奈津は糸子を床に下ろして罵倒した。
髪を玉枝に結ってもらっている糸子に八重子が尋ねてきた。
「糸ちゃん、あんた花嫁衣装持って来たんか?」
糸子は忘れていた事を思い出し、玉枝と八重子は急いで勘助に取りに行かせようする。
「アホか!もうええわ!待っとき!」
髪結いの間、糸子を睨んでいた奈津がドサと着物を糸子の目の前に置いた。
「うちのや!うちは着られへんかったけどな!」
控え室で着付けが終わり、玉枝、八重子に抱えられて立つ糸子を見て奈津は言った。
「馬子にも衣装。豚にも晴れ着。…もう一個思いついた。猿にも化粧」
盛り上がっている会場に糸子が入ってくると川本は糸子に微笑んだ。
「花嫁やー!」木之元栄作が糸子が祝言の花嫁の席に座っている姿を見つけて叫んだ。
「なんと綺麗な花嫁や」祖父・清三郎達をはじめ会場中が糸子の花嫁姿を見て感嘆する。
「花嫁が来たことやし…ここいらでもう一回乾杯しようけ!」栄作が大声を出した。
「アホ抜かせ!その前にワシの高砂が先じゃい!!」善作が慌てて席に戻る。
「ほな!勝さん、糸ちゃん、おめでとうさん。乾杯!」
「高砂や~この浦船に~…何をやっとるんじゃ!」
善作が歌いだすがそこに酔っ払って足が縺れた勘助が倒れこんできてしまう。
「すんません、遅なってしもうて」糸子は川本に詫びた。
「仕事やったんけ?」川本は笑顔で尋ねてきたので糸子は頷いた。
そして糸子は会場中の人が温かい目で自分を見ていることに気がついた。
案外ウチの着物がちゃうことに誰も気がついてませんでした。
いや、ほんまはきぃついちゃあたかもしれません。
そやけどそのことにもウチが遅れてしもたことにも誰も何も言わんとただただ今日の日を喜んでくれるだけでした。
うちは果報者です…
糸子は皆に祝福され思わず涙をながしてしまう。
― 翌朝
「今日10時までに納品いかなあかんよって、朝ご飯…!?」
ふすまを開けると川本勝の寝姿を発見する。
あ、そうや。今日からこの人いちゃったんや。
その日から川本(以下、勝)を加えた3人が朝食とることになった。
ハルに引越し作業について尋ねられた勝は、弟と知人でなんとかなるレベルだと説明した。
「ほな、あんたも手伝いや」ハルは糸子に言った。
「ウチ、今日納品あるよって、それ先行ってから」
「納品みたいな明日でもええやろ?」ハルが糸子に渋い顔をした。
「そんな訳にはいけへんて。期日ちゅうもんは何があっても守らなアカンもんなんや」
「ようそんな偉そうなこと言えるな。祝言にあんだけ遅なったのは誰や」ハルは呆れた。
「納品どこ?ワシ行っちゃるわ。あんた脚痛いんやろ?」勝が平然とした顔で言った。
「若い男が家にいてるちゅうもんはええもんやなぁ」
糸子の納品に出かけた勝を見送ったハルが嬉しそうに言った。
確かにウチもそう思いました。そやけど…お父ちゃんでも勘助でもない男の人が家の中をウロウロしてるっちゅうんは、何やウチにはまだまだけったいな感じです。
― 夜、糸子と勝の布団が別々に敷いてあるのを見てハルが糸子に文句を言った。
「糸子!あんたの隣に敷けっていうたやろ!」
「せやかてお互い気ぃ遣うてよう寝んよって…」糸子は面倒くさそうに答えた。
「なにが気ぃ遣うや。アンタらは夫婦なんやで?」
それでも川本さん・・・いや勝さんちゅうんは奇特な人でウチがそんなんでもお構いなしで…とにかくいつでも上機嫌。どこにいてても何をやってても上機嫌。
「アハハハハ!!」勝が縁側で大爆笑していた。
「どないしたんや?」慌ててハルは勝に心配そうに尋ねた。
「それが(笑)脚の爪、切っちゃったら…それが(笑)!」
勝は腹をかかえて爆笑しそのまま後ろに倒れてしまう。
「爪がどないしたんや(笑)」ハルは苦しそうに笑っている勝をみて思わず笑ってしまう。
けどまあ、そういう人やさかい、ウチもおばあちゃんも気ぃ遣わんですむんは、ありがたいことでした。
「爪が!爪が!ギャハハハハ!!(笑)」
勝の笑い声を聞いていた糸子は作業しながら思わず頬が緩んだ。
「脚の爪一個でようあんだけ笑えんな(笑)」
【NHK カーネーション第47回 感想・レビュー】
なんだか切ないやら楽しいやらで面白い回でした。
奈津は自分が祝言を挙げられなかったから、両親が健在な糸子には挙げてもらいたかったんでしょうね。挙げてもらいたいたかったっていうとちょっと意味が違うかな。
なんでしょう…説明出来ないこの感じ…とにかく奈津というキャラクターはかなり特異的な性格でこのドラマの良いスパイス的な役割をしてる感じがします。
花嫁の糸子を見る奈津と善作だけ笑ってなかったんですが、それが印象的でした。
祝言の回では本当にオールキャストというか従兄弟の勇君までいたんですね。台詞無かったけど。いや贅沢な回でした。
で、今日一番面白かったのが川本勝改め小原勝が爪を切って笑っているところ。
確かにあれだけ幸せそうな人が周りにいたら楽しいかも(笑)