「赤紙って…あの赤紙か?」糸子が勘助に尋ねた。
「そうや…」勘助は暗い声で返答した。
「兵隊になんけ!?あんたが!?」
「…うん」勘助は頷いた。
「はぁ~嫌やのう」勘助はため息をついた。
「何が嫌やねん?名誉なこっちゃんか!」
「名誉なんかいらんわ!軍隊なんか工場よりキツいんやで?鬼みたいに怖い奴おって、毎日そいつに殴られるんやで?」
糸子は落ち込む勘助を見てると心の底から祝う気にはなれなかった。
勘助の出征を祝って小原家で善作や栄作、木岡等も集まり宴が催された。
「当たらん当たらん!弾なんか!(笑)兵隊なんぞ毎日ドンパチしてるわけないんやぞ?」
善作は緊張している勘助に笑いながら説明した。
「そんな派手なことは滅多にでけへん!今日も訓練、明日も訓練、たまに森の中でジーッと隠れとったりして(笑)」木岡保男が言うと隣にいた栄作は爆笑する。
「ワシらかて日露の時は岸和田には帰って来れへんとゲッソリしたもんや。そうやけど、こうして毎日飲んだくれてらし(笑)」善作は目の前の酒を飲んだ。
「そやけど腹だけは壊さん様にな!」栄作達は腹は命に関わると注意した。
「腹巻きもっていきや!うちがこさえたろうか?」糸子が勘助に言った。
「うん。頼むわ」善作達の話を聞いているうちに勘助も腹さえ壊さなかったらどうにかなる、無事に帰って来れる気がしていて表情が明るくなっていた。
しかし勘助の母・安岡玉枝には笑顔がなかった。
勘助が出征する日、岸和田商店街では勘助を見送るために集まっていた。
「こないしたら勘助もえらい立派な男に見えるやん(笑)」
お立ち台(?)に立っている勘助を見て糸子が静子に言った。
その後、安岡勘助君を見送る万歳三唱が岸和田商店街の人々により行われる。
「小原…俺、帰るよって」勘助の親友・平吉が糸子に声をかけてきた。
「なんでや?最後まで見送っちゃりや」
「見てられへんわ哀れで…」平吉はそういい残すと俯いたまま、その場を立ち去る。
「何でそんな事をいうんよ!せっかくめでたい出征の日なのに…」
― 2ヵ月後、玉枝が嬉しそうに勘助から届いた葉書を糸子に見せた。
「見ちゃって見ちゃって(笑)」
「汚い字やな…相変わらず(笑)…あれ?何やこれ?」
糸子は勘助の葉書がところどころに墨で黒く塗りつぶされている事を不思議に思った。
「あの子、アホやさかいな(笑)書いたらあかんこと書いたんや思うねん」
玉枝が糸子に説明した。
「…ホンマあの墨許せん(怒)」
夕食の食卓を囲みながら糸子は鬼の形相で独り言を言った。
人の葉書を勝手に塗りつぶす胸くそ悪いその墨みたいなもんは、その後もうちらの生活をちょっとずつ塗りつぶし始めました。
― 昭和14年。
綿製品非常管理(綿は作る売るのも規制がかかる)や国民徴用令交付(節約すべし)という時代になったが、オハラ洋装店は絶好調だった。
岸和田の女性は洋装に熱を上げていて、オハラ洋装店には毎日お客さんがひっきりなしに洋服を作りにきていた。オハラ洋装店は空前の繁盛ぶりだった。
お腹が大きくなっても働く糸子は、立ちくらみやめまいを起して従業員を心配させる日々を送っていたある日、糸子はついに倒れしまう。
「来たか!?出迎え!」糸子の看病をしていた善作は千代に尋ねた。
「今、前に車止めてもうてます!」千代が答えた。
「ホンマ大丈夫や。ちょっと立ちくらみしただけや…」糸子が起き上がろうとすると
「大丈夫やない!!」善作と祖母・ハルが糸子をしかりつけた。
「もうお前の言う事は聞かん!神戸行け!子供が産まれるまで帰って来んな!
ここにおったら、お前なんぼ言うてもお前仕事するやろ?」善作が言った。
「けどウチがいてへんかったら店が…」
「店はどないでもなるて。僕かて静ちゃんかていてんねさかい」勝が優しく言う。
「お前だけの子やない。勝君の子でわしの孫や」と善作が言うと
「うちのひ孫や!」とハル。
「言う事をきけ!!」善作とハルは2人で再び声を揃えて糸子を叱った。
糸子と勝は善作とハルの息がピッタリだったため唖然とした。
糸子は、神戸から来た迎えの車に乗った。
「お母ちゃんが神戸行くで?優ちゃんの弟が産まれるよってな(笑)」
善作は手を引いていた糸子の娘・優子に優しく言った。
「…弟かどうか知らんで」
車の中から糸子は善作にムスっとした表情を見せる。
「いや、今度は男や。小原の跡取りや!良かったなあ~優ちゃん、弟やで(笑)」
糸子を乗せた車は発車した車の中で糸子は考えていた。
お母ちゃんは弟かどうか知らんし店が心配でしゃあないです。
【NHK カーネーション第49回 感想・レビュー】
なんだかカーネーションらしさを保ちつつ、時代を踏襲してましたね。
長野県(おひさま)と大阪府(カーネーション)ではこうも違うのかと思いました。
ただ勘助が出てこなくなってしまうのは寂しいです。
オハラ洋装店、相当勢いありますね。
妹の静子も糸子と勝が頼りにするくらいに成長しているし、勝がやってる紳士服店(2階)に従業員が3人くらいいたし。
だから善作も質屋で働かないで子守に毎日、店に来てるんでしょうか(笑)