朝、糸子は目を覚ました。
>ああ、もうお父ちゃん、いてへんのやなあ…
ぼーっとしていると襖が開いて妹の清子が顔をのぞかせた。
「糸子姉ちゃん…朝ご飯の事なんやけど…」
糸子は台所の野菜や米がほとんどない状態になっている事を知り驚く。
「町内会のオバちゃん、全部使てしもたみたいなんや…」清子が説明した。
とりあえず糸子は残った微量の米でお粥にしようと朝食のメニューを指示するが
「はあ…どないしよう」糸子は食糧事情にため息をついた。
「葬式出すっちゅう事はそういうことですよ!?祭壇こさえるのもお坊さん呼ぶんもタダじゃないんです!お客さんに料理振る舞う、お酒振る舞う、お金のかかる事なんです。せやから皆歩いて済ませるんです!せやから静ちゃんかてあないお金の心配してたんです!
『お金の心配してる場合ちゃうやろ』ちゅうてタンカ切ったん先生じゃないですか!?」
頭を抱える糸子に昌子は小言をぶちまけた。
「…先生!今日から店、開けましょ」昌子が糸子に言った。
「あかん!そんなん!初七日まで開けへんて決めたんや!」
「せやかて初七日まで、どないしてご飯食べるんですか?」
「まあ…とりあえず香典で凌ぐ!」糸子は集まった香典を昌子に見せた。
お金があっても八百屋や魚屋には物が売ってない現状を説明する昌子に対して『今日は売ってるかもしれない』と糸子は縫い子のトメと幸子に買出しに行かせることにした。
― 朝食を食べていた優子は椀の中の半透明の液体をすくって言った。
「これお粥さん?お湯ばっかしや…」
「お米がな、ちょっと少なかったんや」千代は優しく優子に説明した。
― 糸子は寝込んでいて祖母・ハルの部屋に食事を運ぶ。
「お祖母ちゃんには、ちょうどええでこのお粥さん。起きれるか?」
糸子は起こそうとするがハルは背中を向けたままで動こうとしない。
「起きれる。…けど起きたない。お粥さんなんか食べとうない。自分の息子より長生きしても何もええことない」
それを聞いた糸子は立ち上がり、閉め切っていた窓を全開に開けた。
「こら開けるな!」
「辛気くさいんは寿命を縮める!」糸子はハルに祖母・貞子から学んだセリフを言った。
― 買出しに行っていたトメと幸子が泣きながら帰ってきた。
「うちには売らん?どういうこっちゃ!?」糸子はトメと幸子に尋ねた。
「『小原のとこの縫い子なんかには売らん』て言われたんです」2人は泣きながら説明する。
「『あんたのとこ闇やってるやろ』て言われたそうです」昌子が補足説明した。
「はあ!?闇!?なんでうちが闇!?」糸子は唖然とした。
「この際やからハッキリ聞かせてもらいますけど先生はホンマに闇商売は…」
「やってへんわ!!やるかほんなもん!!」糸子は机を叩いて立ち上がった
「うちに闇なんかでけたら、こんなアホみたいに朝から晩まで働くかいな!!
闇やらなアカンやったら、アンタらなんかとっと里に帰してるわ!!
何であんたらまで食わす為にうちが罪おかさなあかんねん!!」
結局、糸子は喪が開ける前に店を開けることにした。
糸子が店の表に貼ってあった張り紙が破られている事に気がついた。
周りを見ると植木は倒され、“非国民”と書いてある貼紙が貼られていた。
「町内会のおばちゃんらとちゃうやろか…うちが闇やってるとか言い出したん」
トメと幸子を隣町の市場に行かせた後に清子が言い出した。光子も賛成する。
「アンタら、滅多な事、言うもんちゃうで葬式でどんだけ…」糸子が2人を諌めようとするが
「せやけど、おばちゃんら『こんなにようさん食べ物あるっておかしい!』て聞いた」
「うちも『配給所に貰いに来てんの見た事無いのに』て」妹達は通夜の日の事を言った。
「そんなん…ウチは、ようさんあるさかい!遠慮して貰いに行けへんかったんやないか!」
糸子は声を荒げて清子に言った。
「ウチに怒らんといてな!ウチが言うたんとちゃうのに…」清子は泣き出してしまう。
すると母・千代がメモ用紙片手に鼻歌を歌いながらやって来た。
「粉あるかいなあ~♪粉!」
― 静子、光子と千代は台所で団子をこね、清子はだし汁を作っていた。
「さすが、おばあちゃんやなあ」
「“すいとん”なんか、ウチら思いつけへんもんなあ」4人は嬉しそうに料理をしていた。
>配給を遠慮して行けへんかったのはホンマや…
>けど、そんだけとちゃう、意地もあった。
>うちの者をあの列に並ばさんと事でうちは自分を特別やと思おうとしてた…
>自分にはそんだけの甲斐性があるんやて思いたかったんや…
「アホやな…」糸子は誰も来ない店で一人、呟いた。
「こんにちわ」木之元節子が店にやってきた。
「ああ。おかげさんでええ葬式が出来ました。ほんまおおきに」
「もう店開けてんけ?」
「うん…」
>おばちゃんもうちがやみやってるて言うたんやろか…
「せや、あんな…明日野菜の配給があるやんて」節子が言った。
「おおきに。回しておくわ…」
「…あんな、うち行くさかい、糸ちゃんも一緒に行こや。
糸ちゃんのとこ食べ物ようさんあるさかい行かんでもええかもしれへんけど…
あれやで…美味しいで配給のもんかて」
「…おおきに。……行くわ。誘ってくれてホンマにおおきに」
糸子は節子に礼を言った。
その夜、小原家は作った“すいとん”をみんなで盛り上がりながら食べた。
翌朝、糸子が店の前を掃き掃除していると、鞄を持って節子が配給所に誘いに来る。
「行こか!」糸子はカバンをもって節子と歩き始めた。
>疑いちゅうもんはいっぺんかかったらそない簡単に晴れへんのかもしれん
「はれ糸ちゃん、配給行くんけ?」木岡美代がカバンを持ってる糸子に驚いた。
「…うん」
「ほうか。よし!ほな一緒に行こ!(笑)」
>ほんでも、やっていける…うちを信じてくれるこの人らは
>お父ちゃんが残してくれた宝物です。
【NHK カーネーション第68回 感想・レビュー】
木之元電気に嫁いだ節子さん、油断すると縫い子の昌子さんと間違えてしまいますが、今日はなんだか素敵な気遣いでした。「美味しいで」って…節子なりに噂にならないように糸子を配給所に行かせようと誘ってくれたんですよね。
これまた勝手な解釈で申し訳ないのですが、節子から配給所に誘われたときの糸子の反応…プライドが邪魔して素直に喜べない複雑な表情からの笑顔で『おおきに』。私的に今日の一番でした(笑)
そういえば12月31日(土)午前7:20~8:48にカーネーション前編が放送されます。
1時間半にまとめるとなると…細かいシーンとか相当削られるんでしょうね…