昭和16年、安岡髪結い店の前を子供達が“パーマネントを辞めましょう”と歌っていたので
玉枝は、恐ろしい顔で追いはらった。
「今のうちや。10年したらパーマネントの別嬪追いかけ回さあかんようになるさかい(笑)」店で八重子にパーマをしてもらっていた女性が言ったので玉枝と八重子も笑った。
この時代、おしゃれは非国民のすること風潮が日に日に強まっていた。
しかし、その非国民が小原洋装店に毎日押し寄せてくれるおかげで店は繁盛していた。
男性は背広が作れなくなり、勝の仕事は国民服の注文が少しあるだけになっていた。
そんな中、木岡履物店の店主・木岡保男の弟・靖は一人商売が繁盛していて、岸和田商店街の男連中と共に吉田屋で芸妓を呼んで宴会をしていた。
吉田屋もまた軍需景気にあずかっていた。
奈津が徳利10本を靖達が飲んでいる部屋に運び入れと自分の夫・康夫も一緒になって飲んでいることに気がついた。
「ちょっとあんた!何やってんの!調子ようお客さんに混じって!」奈津は康夫を睨む。
「まあまあ女将!大将もたまには息抜きせなな」康夫の隣で飲んでいた勝が康夫を庇った。
「大将が飲んだ分はやっさんが払うてくれるさかい!店かて儲かるちゅうこっちゃ!」
靖達と飲んでいた男も康夫をフォローしたので
「そや!わしは店儲からしちゃろ思て飲んでんやん!」康夫は調子づいて奈津に言った。
「はあ!?」奈津は目をむいたが言われた康夫は
「言…言うたった!普段怖くてこんな事絶対言わんのに!」笑顔になっていた。
頭に来た奈津は、康夫をそのままに戸を勢いよく閉めて部屋を後にした。
「おお怖!!」その光景をみて男達は盛り上がった。
「お母さん、もうやめようかパーマネント…子供らも学校で色々言われているみたいやし」
八重子は義母の玉枝に相談した。
「アホか。まだそんな甘っちょろいこと言うてんけ?」
玉枝は髪結いだけではもう食べていけない時代になったことを口にする。
「…すんません」八重子は深く頭を下げた。
「店一軒、守るゆうんは大変な事や。大変で当たり前なんや。ええときに調子乗んのはもあかんけど…辛いときにくじけんのもあかんねん!よう覚えとき!」
玉枝が八重子を励ましていると電報が届いた。玉枝は電報を読んで目を輝かせた。
「勘助からや!勘助が帰ってくるて!」
勘助が“だんじり祭”前の水曜日に帰ってくる知らせは瞬く間に広がった。
糸子は善作や保男、栄作達に小原家で宴会をしようと持ちかけた。
その宴会当日、なかなか勘助がこないので糸子はやきもきしていた。
「こんばんわ~」随分と遅れて八重子が料理を持ってやってきた。
「勘助は?」糸子は肝心の勘助がいないので八重子に尋ねた。
「勘助ちゃん、お腹の調子が悪くて今日は遠慮させてもらうって」八重子が説明した。
「久しぶりの日本が嬉しいて、目につくもん片っ端から食べて帰って来たんちゃうか?」
料理を準備していた祖母・ハルが面白そうに言ったが糸子は納得が行かなかった。
「せっかく店まで早く閉めて待っちゃってたのに!
治ったらいの一番で詫び入れに来いちゅうていうといて!」糸子は八重子に伝えた。
結局、その日は泰蔵と八重子が顔をだしただけで玉枝と勘助は来なかった。
それから何日か立っても見せに来るどころか祭にさえ顔出さなかった。
「こんにちわ!」糸子は安岡家に顔を出した。
「あ……糸ちゃん…いらっしゃい」玉枝は曇った表情で糸子に挨拶をした。
「食べさせちゃろ思てこうてきた。いてる?」
糸子は若干緊張した面持ちで勘助の部屋のドアを開けた。
勘助は壁に力なく寄りかかって座っていた。
「久しぶりやのう…」勘助は糸子を見ずに暗い声で言葉を発した。
「…何や…手ぇも足もちゃんとついてるやんか(笑)あんまり顔見せへんさかいどえらいことになってもうてるんか思たわ。心配するやろ?顔見せに来んかい。うちらがどんだけ楽しみに待っちゃったと思ってんよ?聞いてんか?」
糸子を見ないでボーっと座ったままの勘助の隣に座った。
「…手ぇも足も残ってるけどな…もっと…無くなったわ…」
「何がや…?」
「心…」勘助はボロボロと涙を流しながら初めて糸子を見た。
「心…?」糸子はその勘助の変わり果てた様子に戸惑う。
「また来るよって。お邪魔しました」
糸子は呆然としながら玉枝たちに挨拶をして勘助の家を後にした。
「勘助ちゃん戦争でよっぽどの目みたんや。本人が言う様に心を無くしてしもうたと思う」
安岡八重子は小原洋装店を訪ねて糸子に話し始めた。
「なんやそれ?なんやそれ!もう戻ってけえへんの?その心ちゅうんは?」
「戻って来る…って信じたいと思てるよ。ウチもおかあさんも泰蔵さんも…やっと自分の家でゆっくり眠れてお母さんの作ったご飯食べてるうちに…元の勘助ちゃんに…」
「戻るわ!絶対戻るわ!!こんなん大げさに考えたらあかん!
あのヘタレが戦争なんかに行かされてしもうたさかい…
ちょっとぼーっとなってしもたんや。すぐ戻る!すぐ戻る!八重子さん!!」
大きい声で良いながら誰よりもうちがそう思いたかったんです
【NHK カーネーション第54回 感想・レビュー】
先週だったかな、カーネーションが面白かったので他の人が書いたカーネーションの感想ブログを読んだりしてました。
『なるほど!そういう見方もあるのか』とか思っていたんですが…その中に「来週、勘助は戦争から帰ってくるけど心が壊れてしまいます」みたいな事を書いているブログがあったんですよね~『ちょっと!ちょっとちょっと!』です(泣)
いやいや、そんな事言わなくてもいいでしょ?って思いますが、その前にそんなに内容を観る前に知っていてドラマとか映画面白いの?って疑問です。ま、いいか(笑)
さて、今日は何やら凄い雰囲気のある回でしたね。
心を無くしてしまった勘助と後姿で(たぶん)泣いて安岡家を去る糸子…もう名シーンですよ。悲しいでも悔しいでもない糸子の辛さが伝わったような気がします。
それにしても、奈津の亭主、完全に駄目亭主ですね。