「そちらに証明捺印をお願いします」
勝に召集令状を運んできた男は淡々と説明した。
糸子は勝が召集令状に捺印しているところを呆然と見ていた。
「糸子、今日、あんた午後からな…」何も知らないハルが糸子に話しかけてきた。
ハルは糸子の視線の先を見ると、力が抜けて座ってしまう。
勝が出征する事に決まってからも糸子は店を休みにしなかった。
「こんな日くらい店休んだらええのに…」慌しく働く糸子の様子を見て母・千代が言った。
「ええんねん、普通に店開けてる方が気がまぎれるさかい」糸子が千代に話す。
そして糸子は勝が5日(4日後)に出征することを教えた。
「お父ちゃんが家族水入らずでゆっくりせえ言うてたで」千代は残念そうな声を出した。
「そやけど正味、そんなな暇もないやろな…」
「お父ちゃん、どっかいくん?」2人の話を聞いていた優子がきいてきた。
「お父ちゃんなあ、戦争に行くんや」糸子は優しく説明した。
「優ちゃん、お父ちゃんいってまうの…嫌やなあ」
「お母ちゃんも嫌やけどなしゃあないんや」
優しく子供をなだめている糸子を見て千代は泣いてしまう。
勝は出征の報告やら挨拶で実家や友人の家を回るため3日ほど帰省することになった。
「ほな実家行ってるくるわ!」勝が店をでると糸子は慌てて追った。
「出征ちゅうったらなにをもっていくんやろ?」
「ないない!旅行ちゃうんや(笑)」勝はそう答えると笑顔で実家に向かった。
店は相変わらず忙しかったため糸子にとっては助かった。おかげで糸子は余計なことを考えずにすんだ。そんな中、正一と勇が小原洋装店に顔を出した。
「そやけど勇君、何年ぶりや?」久しぶりに会う従兄弟に糸子は懐かしそうに尋ねた。
「糸ちゃんの結婚式以来やな、8年前か」
勇は仕事でセレベス島に行っていたが会社が潰れたため、最近では正一の紡績工場の会社を手伝っていることを伝えた。
「おじいちゃんら元気にしてんの?」糸子は叔父の正一に尋ねた。
「まあまあな。勝君の事聞いてお前の事を心配しとったで」
「大丈夫やって言うといてな」糸子は笑顔で正一に伝えた。
勝が店に戻ってくると糸子は勝の頭をバリカンで刈る。
見事な丸坊主になった勝の頭を優子が気持ちよさそうに触っていた。
この頃は派手な出征祝いは禁止されていたため、家族と店の子達で小さい会をした。
また世の中では食べ物がないと大騒ぎだったが糸子達はお金の代わりに食べ物を置いて行く客のおかげで全然不自由してなかった。
「それ豚やん!」台所で糸子が豚を揚げていたのを見てハルが驚いた。
「…そうや?」
「闇だけはやりなや。人に知られたらえらいこっちゃで」ハルがジロリと糸子を睨んだ。
「うちは闇はせえへん!」糸子は口を尖らせた。
小さな出征祝いを行う小原家のテーブルに糸子が豚カツが山盛りになった皿を置いた。
「カツレツや!!!」勝の元で働いていた男の縫い子(テーラー?)が目を輝かせる。
糸子は勝が腹いっぱい食べてからと忠告するが
「かまへん!食え食え!お前らも今までご苦労だったな」と勝は2人の労をねぎらう。
「お父ちゃん、遅いな…」台所に戻った糸子は千代に言った。
「必ず行くちゅうてたんやけどな…どんな顔をして来たらええか困ってんやで」
「困ってる?」
「案外こんな時、何言うたらええかわからへんようになるさかいな」千代は笑顔で言った。
仕方なく、糸子は店の外で善作を待つ事にした。勝も糸子が心配で店の外にやってきた。
糸子はゆっくりやってくる善作を見つけた。
「あ、きた!…もう遅いやんかお父ちゃん!」
暗い顔で日本酒を抱いて歩いてきた善作に勝は報告した。
「お父さん、すんません。赤紙…来てしまいました。すんません!」
最初は笑顔で報告していた勝だったが、最後には泣きながら善作に何度も謝った。
善作は何も言わず、勝の方をたたいた。
そんな光景に糸子は耐えられず、その場を離れ涙を流す。
そして、その晩は善作と勝は一晩中酒を飲むのだった。
次の朝、勝は二日酔いの浮腫んだ顔で出征していった。
― 翌日(?)
「ごめんください。お荷物です」
糸子が相変わらず仕事に追われていると荷物が届く。2階の部屋で荷物のトランクを開けると
勝が出征の日に着ていた背広が出てきた。
糸子はグレーの背広を見て笑顔になる。
「糸子、勝君の荷物か?」善作がふすまをあけた。
「着ていった背広を送り返して来たわ」
「…ちゅうことはまだ大阪にいてんけ?」
「それは書いてないけど…元気やて」
「せめて、この正月くらい日本で迎えられたらな。…中よう見たか?そう言う所に書いたらあかんもの書いて入れとくもんなんや」善作は勝の荷物を調べるように糸子に言った。
糸子が背広を隅々まで調べると何かポケットに隠すように入っていたものに気づく。
「なにか入ってる!」
糸子が取り出すと、女性と勝が浴衣を着た写真だった。
>その女の人、どっかで見た事ある…
糸子は、歌舞伎座で出会った『菊乃』といった女性を思い出した。
「あ…あの人や!」
【NHK カーネーション第57回 感想・レビュー】
気にしない人にはどうでもいい情報ですが、NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』の視聴率が第9週で20%を越えました。っていうか先週はかなり20%越えだったみたいです。
16%からスタートして20%をキープするようになったという事はカーネーションを見る人が増えたという事ですで、なんだか嬉しいです。
今日は、勝の出征と浮気(?)が同時にやってきた回でしたね。
浮気写真は、どこかの温泉街みたいなところに見えたんですが、そんな暇あったんでしょうかね?実は結婚前の写真ってオチ?
それは置いておいて、勝が善作に謝るシーン、笑顔から号泣へ表情が変わるとこ泣けました。