昭和17年12月末-
善作は勝がいる場所へ行くが面会が許されず肩を落として帰って来た。
「会わせてもらえなんだ…」善作は愚痴をこぼしながら孫の優子に土産を渡すのだった。
糸子は縫い子や妹達に野菜やら御煮しめやらを風呂敷に包ませていた。
「ええか?家の奥に通してもろてから中身出すんやで。
あんまり人目に着いたらようないさかいな」
各家に配る時の注意点を伝え、糸子自身も木之元電気店を訪ねた。
「こんにちわ。これ歳暮!今年も世話になったさかいな」
糸子は居眠りしていた栄作に風呂敷を渡し中身を見せた。
「うわー助かるわ!おおきになあ!」栄作はことのほか喜ぶ。
「お煮しめと雑煮くらい出来るだけ入れといたさかい、ええ正月迎えてや」
糸子が自分の店に帰ろうとすると栄作の妻・節子が追いかけてきた。
「糸ちゃん!糸ちゃん!これ。カイロや。油入れて火つけたらぬくなるよって使て」
節子はいつも貰うばかりだからと糸子に携帯カイロを渡した。
「おおきに!寒いさかいなあ。ごっつい嬉しいわ(笑)」
店に戻り客の相手をしていると、安岡家に歳暮を届けに行った縫い子・りんが帰って来た。
「あんじょう受け取ってもらえたか?」糸子が尋ねた。
「はい、この通りです」りんは畳んである風呂敷を見せた。
りんは、背の高い女性(八重子)に渡したと報告した。
「先生に「くれぐれもお礼言うといて」言うてました」
「男はおらんかったか?うちと同じ年くらいの顔のなまっちょろい…」
「見てません…背の高い人とおばさんだけでした…おばさんとは話してません」
>よかった、ちょっと安心やな
>受け取ってさえくれたんやったら、この正月には雑煮が食べられてるやろ。
>お煮染めも“きんとん”もこさえられるだけ野菜かて入れておいた。
昭和18年正月-小原洋装店では御節や雑煮が並べられていた。
「餅くらい食えてんのかなあ?」自分の雑煮を見ながら善作がボソリと呟いた。
「そらこれからしっかり戦うてもらわんとあかんやさかい、お雑煮くらいた~んと食べさしてくれてんのちゃいますか?」千代がのんびり善作に言った。
「お前な…そんな甘いもんとちゃうんやど?」
善作のセリフを糸子は黙って聞きながら餅にかぶりついた。
年があけると電気、ガスが規制がますます厳しくなった。
2軒に別れて生活するより節約になると善作達は糸子の家で生活するようになっていた。
>その方が子守りかてしてもらえるよってうちにとっても都合がええ。
そんな年明け早々、木之元栄作が明るい調子で店にやってきた。
「いっしゃい!お父ちゃん、木之元のおっちゃん!」糸子は奥の部屋の善作にこえをかけた。「…いや糸ちゃんに…昨日な、勝君、大陸へ渡ったて」栄作は声を落として伝えた。
>『どうせ浮気しちゃった旦那や』という気持ちと、『そやけどうちがなんぼ家族をほったらかして仕事したかて文句の一つも言わへんかった、あんな優しい人はいてへんで』ちゅう気持ちと『いやほんなもん、自分が遊ぶのに都合がよかっただけや、けどそこまで腹黒い人じゃないはずや』
一日中、ほんなんが頭の中がぐるぐるぐるぐる!出征してしもて悲しさやら心配やらないことないけど他でぐるぐるしすぎてそこまで気がいけへんちゅうんはええんか悪いんか…
「ごめんください!」
大日本婦人会の女性達4、5人が小原洋装店にやってきた。
「小原さん、このたびはご主人のご出征、誠におめでとうございます!」
「…どうも、おおきに」糸子は戸惑いながら頭を下げた。
「つまり、ご主人の使っていたミシン、今は使ってないということですね?」
女性達が二階の店で勝が使っていたミシンについて話し出したので糸子は慌てた。
「あ…使てます!あれはいるんです!供出できません!」
「お国の非常時です!2台あれば便利でしょうが1台でもどうにかなるはずです!」
「けど戦争から帰って来た時に無かったら主人は仕事がでけへんようになります。
勝手に供出することはできません!」
糸子の説明に女性達は眉をひそめた。
「はあ?帰って来た時!?まだそんな低い意識でこの聖戦に望んでいるんですか?
夫を戦地に送り出したら潔く遺骨になってかえってくるのを願うべきやないんですか?
死んでお国の役に立ってこそ旦那さんの値打ちちゅうもんです!」
婦人会の先頭の女性が強い口調で糸子に言った。
「…何ぃ!?……何、この…モゴモゴ…」
「まあまあ後でよう言うてきかせますんで!」善作と昌子が慌てて糸子の口を塞いだ。
婦人会が店から引き上げると糸子は一人涙を浮かべて床を叩いた。
「くそ!!!何が死んでこその値打ちじゃ!!」
その晩、糸子は悔しくて、寝付けなかった。
>おおきいぬくい背中。笑たりしゃべったりする顔、心、それが全部骨になってこその値打ち…石炭みたいにボンボン燃やして日本は一体何が欲しいちゅうんや。
「戦争ってなんやねん…」
>あかん、考えたらあかん。どうせ浮気してた旦那や…
糸子は諦めて眠ろうとした。
その時、一階で仕事をしていた善作がカイロをタンスから取り出そうとしていた。
タンスが中で引っかかりガタと揺れ、その拍子に懐炉用のオイルが火鉢の中に落ちた。
ガシャーン!!!
「キャー!!」
一階から聞こえたガラスの割れる音と悲鳴で糸子は飛び起きた。
【NHK カーネーション第60回 感想・レビュー】
土曜日にこんな終わり方をされたら気になって日曜日が!って思ってしまう…
ま、火事は置いておいて、縫い子・昌子以外のキャラがようやく喋りましたね。
『りん』この時代にしては珍しい名です。北斗の拳が思い出されます(笑)。
そのりんが届けた安岡家と勘助が相変わらず気になる糸子…優しすぎ。
なんだかんだ言ってもお歳暮贈ったり、勘助を心配したり、人間として素晴らしい。
年末にお歳暮ってかなり量の食料を配ってましたが、前作『おひさま』とはエライ違いです。おひさまでは、ソバもうどんもなくて食べ物には苦労してましたからね。
今日は個人的に気に入ったシーンがふたつほど。
木之元栄作の妻・節子が糸子に心を開く(?)シーン。
最初、糸子(16歳くらい)達は怖がって店に気軽に入れなかったって言っていたけど、いつのまにか「おっちゃ~ん」って店に入っていたし、「糸ちゃん!」とか呼ばれてるし。
怖い人ではなく、単なる人見知りだったってことですね(笑)
もう一つは婦人会に糸子がキレるシーン。
糸子演じる尾野真千子さんの『巻き舌』は本当に面白いし迫力あります(笑)
彼女が他に出ているドラマとか映画では品がある女性なのに(笑)