朝、糸子は小鳥のさえずりで目を覚ました。
「…もう夕方け?…ちゃうわ、朝や」
夕方と朝方と区別がつかなくなるくらい糸子の生活は乱れていた。
― 千代はおかゆを食べさせようとするが包帯まみれの善作は言った。
「ひゃんとはまへよ」
「は?」千代は善作が何を言っているかわからず聞き返す。
「『ちゃんと冷ませ』って」糸子は横から善作の言った事を千代に伝えた。
「あんたよう分かるなぁ!やっぱし娘やな!お母ちゃんなんか全然わからへんわ(笑)」
千代は感心してそのまま(冷ますのを忘れて)、おかゆを善作の口に運んだ。
「は!は!はふい(熱い)!」善作はおかゆを噴出す。
「わめきなや!やかましい」善作の隣で食事をしていたハルが注意した。
『おぎゃあああ!』隣の部屋で赤ん坊が泣き出したので糸子は慌ててふすまを開けた。
すると直子が赤ん坊の顔や部屋中が赤く落書きをしていた。
― 夜、糸子は布団の中で目を覚ます。
「あら、もう夜中か…?」
隣の部屋から呻き声が聞こえてきたので糸子は襖をあけた。
「…誰の声?」糸子は座っていた千代に尋ねた。
「おばあちゃんや…夢にうなされているんや(泣)」
「おばあちゃん、だいじょうぶやで!」糸子はハルに近づいて声をかける。
>日がな一日、赤ん坊は泣く、直子は暴れる。お父ちゃんは癇癪を起こす。お母ちゃんはメソメソ、おばあちゃんはヨロヨロ…
「こっちまでガタきてまいそうや」糸子は帳簿をめくりながら頭を抱えた。
>こんでせめて商売だけでもうまいこといってくれたらええのに…
年明けから衣料切符の点数が引き上げられてから客はめっきりと減っていた。
「ごめんください!」日本婦人会の女性が店に現れた。
「…どうも」糸子は面倒くさそうに体をおこして返事をした。
婦人会の澤田は糸子に対してもっと倹約するように注意しはじめた。
「我欲に溺れず買い物に来た人を戒め何も売らずに返すくらいの気概をみせてください!」
「・・・・・・・・」
「小原さん、どないかしたんですか?」
「こないだ子供を産んだばっかしで…その前の日に火事があって、お父ちゃんが大火傷してガラスが割れて畳が水浸しになって、おばあちゃんが腰抜かして…おかげさんで家の中、ガッタガタですわ!!(怒)」糸子は澤田達を睨んだ。
「フッ。そら大変でした。何事も因果応報。悪い事が続く時は大概、自分に原因があるもんです。ご自分を見直す良い機会やないでしょうか?お大事にぃ!」
澤田達は微笑を浮かべながらそう言うと店から出て行った。
「チッ!…さすがやな、おばはん…せやけど二度とうちの敷居…またぐな!」
糸子は誰も居なくなった店の入り口に“お手玉”を投げたが引き返してきた澤田の額に当たってしまう。
>因果応報。おばはんの説教かて一理ある。うちも時々は自分を省みんといかんな…
>朝か?夕方か?誰や?赤ん坊か?お父ちゃんか?おばあちゃんか?
>絵の具を混ぜすぎたら灰色になるようにあんまり色んな事があって
>この頃ウチの目の前も灰色に見えます。
寝ていると廊下から祖父・清三郎と祖母・貞子の声が聞こえてきたので糸子は起きた。
「おばあちゃん!?おじいちゃん!」襖をあけると祖父母がいたので糸子は喜ぶ。
一階では、清三郎たちが持ってきたカステラを縫い子達が嬉しそうに食べていた。
善作を見舞う清三郎は善作の手を握った。
「何も心配することない。いざとなったらうちが面倒みたる!まずはしっかり治すんやで」
清三郎の言葉に善作は感動して泣いてしまう。
「赤ちゃんの名前、なんてつけたん?」祖母・貞子が尋ねた。
「まだなんや…優子も直子もお父ちゃんにつけてもうたさかい」
糸子は善作がそんな状態ではないと貞子に説明すると善作が泣きながら清三郎に言った。
「おほとーはんはひめはっへふははい」
「さっぱりわからん。今、なに言うたん?」
清三郎は一人納得している糸子に善作が言った内容を尋ねた。
「『お父さんが決めたってください』て」
「わしがか!?善作君あんたが決めなたらんと!」清三郎は頑なに遠慮する。
「はまひまへんろうかおほうはんがひめはっへくらはい」
「かましません、お父さんが決めたって下さいって…うちもそんでええよ」と糸子。
すると清三郎の隣に座っていた貞子が口を開いた。
「『さとこ』ってどうや?『いとこ』と似とるやろ?」
「糸子より賢そうや!」ハルが賛成した。
「よし!わかった!『聡明』の『聡』の字で聡子はどうや?こら賢い子になるで!(笑)」
清三郎は善作の肩をポンと叩いた。
「あ~!!いはい(痛い)」善作は痛みで声を上げた。
「やっと決まった!おめでとう!あんた聡子になったで」糸子は赤ん坊に話しかけた。
>おじいちゃんらが来てくれたんはホンマにありがたい事でした。
>聡子の名前が決まって縫い子らはケーキを呼ばれてみんなちょっと元気を取り戻しました。せやけど本題はここからです。
清三郎達の帰り際、見送りに出ていた糸子は貞子の履いていたモンペをみて驚いた。
「おばあちゃん、そのモンペ何?」
「これか?ええやろ?大島や!」貞子はモンペを糸子によく見せた。
「大島!?」
「私の持っとう大島の中でも一番ええもんモンペにしたったんや。ハハハ」
糸子は貞子のモンペを目を丸くして見るのだった。
【NHK カーネーション第62回 感想・レビュー】
大島!?……大島って何?
高価な生地か何かかなくらいはわかったんですがね、調べてみました。
※大島紬とは鹿児島県南方の奄美群島の主島である奄美大島の特産品で手で紡いだ絹糸を泥染めしたものを手織りした平織りの絹布、若しくは絹布で縫製した和服。(Wikiより)
なる程、とにかく高価な着物らしく、着物を知らない人でも名前だけは知ってるそうです…すみません、知りませんでした(ノд`@)
そんな中、今日の千代のボケ(感心しながらおかゆを口に運ぶ)も最高でした(笑)
もう“うっかり”レベルでないところが可笑しいです。
善作の方はというと孫ができて火傷してかなり人間が丸くなったんでしょうか、キヨサブに涙を流して感謝してしまいます。二人共涙もろくなったんでしょうかね。