善作の病院通いは商店街の持ち回りで手伝っていた。
その日も栄作が付き添いの千代と共にリアカーで善作を病院に連れて行く。
病院の待合室は満員で置いてあった椅子も座るスペースがない状態だった。
しかし軍服の若い男性が辛そうに立っていた善作に席を譲ってくれる。
「すんません、よし善ちゃん、座らせてもらおうや」栄作が男性に礼を言った。
「それ戦地でかいな?」栄作は男性の右腕の包帯を見て尋ねた。
「はい。そちらさんは事故かなんかですか?」
栄作は善作が焚き火をしていたおばあさんを助けて火傷を負ったと説明した。
「立派ですね!ほんま立派な人や!!」若い男は善作に関心した。
その作り話は全部、善作が仕込んだものだった。
「ええように言い過ぎたのう。なんぼ『肩身が狭い』言うたかてあっこまで結うたらカッコつけ過ぎや。あの若いのに悪い事したで~」家に帰った善作は栄作と木岡保男に言った。
「なら、潔ようホンマの事言ういいや(笑)」保男が善作に言う。
「周りの若い奴がお国のために戦うて大ケガして帰って来てよ?…ワシだけボヤで火傷したて…大の男が恥ずかしくてよう言わんで?」
そんな中、糸子の夫・勝からハガキが届く。
「元気そやな…ちょっと昌ちゃん、大将から葉書や」糸子は読み終わると昌子に渡した。
「へ?大将から」
「子供らに読んじゃって」糸子はつまらなそうに言った。
「そうか!先生が読んだら声に余計な恨みが籠ってまうよってなあ」
「いらん事いわんでええさかい、はよ上いき!」
>うちにとっても腹立たしい浮気旦那でも恋しい父ちゃんです。無事で帰って来てくれんと困まります。
>どうか無事で…いや…どんだけ変わり果てた姿になったかて帰ってさえきてくれたら、どっさり食べさせてゆっくり寝させて元気にさせて…
「ほんでからこってり油しぼっちゃるんや!…あ…どないしよ?」
糸子は思わず力が入って生地を破いてしまう。
小原洋装店が新しく始めたモンペ教室は大繁盛だった。
「はい!!今の人で店員いっぱいです!次、木曜あるんでそんとき来て下さい!」
昌子は並んでいた女性に詫びて帰そうとすると長谷ヤス子が必死に訴えてくる。
「木曜やったら間に合わへんやし!隅っこの方でええさかい!頼むわ!」
ヤス子は昌子に懇願し何とか無理やりモンペ教室に参加する事に。
教室に糸子が登場し、集まった生徒に挨拶をした。
「慎ましい生活の中でオシャレを楽しんでもらいたい。入学式や結婚式、はたまた息子さんや旦那さんを戦地に送り出す日に少しでも明るくパリッとした気持ちになれる…そういうモンペを着てもらいたい、ほんな訳でこの着物に戻せるモンペを考えました。みなさんしっかり覚えて帰って下さい。」
挨拶が終え教室を始めようとしたちょうどその時、安岡八重子が駆け込んできた。
「すんません!モンペ教室に参加させてもらえませんやろか!?」
糸子は八重子が入ってきたことに目を丸くした。
「すんません、今日はもう定員いっぱいで…」昌子が伝える。
「お邪魔しました…」
「…あの!一人くらいやったら座れんこともないです」
糸子は肩を落として引き返そうした八重子を引きとめた。」
生徒(ヤス子の小言)に構わず糸子は席を詰める様にお願いした。
「すんません!すんません!無理言うて!ほんまおおきに」八重子は何度も頭を下げた。
モンペ教室がはじまり、いざ着物を切ろうとするが、どの生徒も切る事をためらっていた。
「小原さん!あかんわ~うちよう切れんわ」生徒達が糸子に悲鳴を上げた。
「ここで皆そう言うわ。けど必ず着物に戻せるよって怖がらんと切ってよ。な?」
糸子は説明中、涙を流しながら躊躇なく着物にハサミを入れている八重子に驚いた。
「エエもんできてよかったな~」
「ほんまやな~」
モンペ教室が終わると生徒達が満足そうに帰って行ったが、八重子は残っていた。
「先生、ほなうち奥みてましょって お客がきたら呼んで下さい」
昌子は気をつかって2人きりにした。
「あの…今日はおおきに」八重子は糸子に礼を言った。
「こっちこそおおきに」糸子は両手をついて丁寧に頭を下げた。
「泰蔵さんが…明後日、出征することになりました…せやから見送っちゃるためのモンペをここで糸ちゃんに教わって作りたかってん…」
「そうでしたか…」糸子も敬語を使って返答した。
「厚かましいかもしれへんけど…一緒に見送っちゃってもらえませんでしょうか?
お母さんも勘助ちゃんも多分よう見送らんと思うねん。
泰蔵さんも辛いと思うんやし。今時見送りはそない派手にしたらあかんあろけど…せめて戦地で思い出した時にちょっとは明るい気持ちになれるような…ええ思い出作っちゃりたいなあと思て…糸ちゃん!一緒に見送っちゃって貰われへんやろか?」
「…ええの?」糸子の頬から涙がこぼれた。
「うちが頼んでるんや…(笑)」八重子も涙ぐんでしまう。
「勘助にあんなヒドい事してしもたのに?…八重子さんにあんなにヒドい事いうてしもたのに?…うちが泰蔵兄ちゃん見送ってもええの?」
「糸ちゃん…ごめんな」
「なんで八重子さんが謝るん!?『ごめんな』はうちや!ごめんな!八重さん!(泣)」
糸子は何度も八重子に謝った。
「糸ちゃん、明後日、来てな!きっと来てな!よろしくお願いします!(泣)」
糸子と八重子は2人共泣き出してしまうのだった。
【NHK カーネーション第64回 感想・レビュー】
完全にやられました…八重子さんに(笑)
なんでしょう、あのよそよそしい敬語…痛々しくて可哀相で涙ポロリですよ!
八重子さんてば、いつの間にかそういう可哀相なキャラに?
・・・と、その前に長谷ヤス子についてお話しなくてはなりません。知らない方、忘れている方もいるかと思いますが、ヤス子さんは糸子が修行のために働いた生地屋『末松商店』を繁盛させるキッカケを作ったお客さん。ちょっと厚かましくて、糸子が独立しても無料で断裁依頼したり・・・
そのヤス子さん、無理やり店員オーバーの中入ったくせに八重子が来たら「もうギュウギュウや」って…そのおかげで、もう八重子さんが不憫で不憫で…
糸子の「ええの?」って所で危うく本気で泣きそうになりましたよ(笑)