昭和19年9月 ― 小原家
「善ちゃん、今年のだんじりは中止になってもうた。ほんま堪忍や…」
線香をあげながら栄作達は善作の写真に頭を下げた。
「…いや、わしのせいちゃうで?」後ろで糸子が睨んでいるので栄作は断わった。
「別におっちゃんのせいや言うてへんやん!」
「いーや、ほんでもその目ぇは~ワシを責める目ぇ~や」
「責めてへん!悔しいんや…だんじりが無うなるやて…」糸子は肩を落とす。
糸子は“だんじり祭”が無くなった事で仕事中も苛立っていた。
「はあー!!あほらし!!」縫っていたズボンを後ろに放り投げた。
裏通りでは安岡太郎に優子達が国民学校で習った竹の使い方を披露していた。
「せやから『やあ!』って一生懸命やるんやるや!」優子はワラ人形に竹でつついた。
太郎は幼い優子達に大東亜戦争の意味を教える。
「僕のお父ちゃんも自分らのお父ちゃんもよその国の人らを助けるために戦うてるんや」
「立派やなあ!」優子達は太郎の説明に感激する。
「僕もはよう予科練に入りたい!立派な飛行兵になってお国に尽くしたい!」
太郎が目を輝かせて空を見上げた。
仕事の休憩時間(?)、糸子は2階の部屋で直子の面倒をみていた。
「お母ちゃん、何でだんじり無くなったん?」直子が尋ねた。
「男の人らが皆、戦地に行ってしもてるやろ?せやさかい、曳く者がいてへんねん」
「ほんなら女が曳いたらええやんか」
「そら“だんじり”ちゅんうんはな、女が曳いたらアカンもんさかい」
「誰があかんって言うの?」
「さあ…まあ…神様?」糸子はとぼけた。
「直ちゃんが神様やったらだーれも“だんじり”曳いてくれん方が嫌や!来年は直ちゃんが曳いちゃる!絶対絶対曳いちゃる」
直子が力強いポーズをしたので糸子はぎゅっと直子を抱きしめた。
翌日、八重子が仕事をしていると店の入り口に息子・太郎が来たのが見えた。
「お母ちゃん毎日荷物あるわけちゃうんやし…迎えになんか来んでええよ」
八重子は太郎にそっけない言い方をするが太郎は『帰り道やさかい』と短く答えた。
>太郎はええ子に育ってました。
>多分、あれから勘助もおばちゃんもそないええ事にはなってへんやろと思います。
>八重子さんはうちらに見せへんだけで、さぞかししんどい思いを抱えていると思います。
「太郎、あんたも来年は“だんじり”曳いてや。アンタらみたいな子は岸和田に残って“だんじり”曳いてくれんとおばちゃんら、ホンマ困るんやで?(笑)」
糸子は店先で八重子を待っていた太郎に声をかけた。
「よう言うちゃって糸ちゃん。この頃『予科練行きたい』やら、けったいな事ばっかり言いよるんさかい(笑)」
その数日後 ― 小原家の居間。
「あんたら『検品しました』てどこ見て言うてんや!見てみ!これ!
あんたら店の信用なんやと思てんや!
こんな不良品、平気で納品なんかしてたら工場から起こられるだけじゃすまへんやで!」
糸子は縫い子4人を叱っていた。
「すんませんでした!!」縫い子達は一斉に糸子に頭を下げた。
「はあ!」糸子は興奮して仕事場に戻るとミシンに座った。
すると千代がいそいそやってきて小声で糸子に相談し始める。
「八重子さん朝から様子がおかしいんや…ぼーっとして」
「そら、何かあったんやろ?」糸子はつまらなそうに返答した。
「…あんたちょっと聞いたったら?」
「うちかて誰かて相手の荷物をもつ余裕なんかどこにも残ってへんねん!自分の荷物は自分でどないかして貰うしかないんや!」
光子が機嫌よく鼻歌を歌いながら店に帰ってくると店の外に安岡勘助がいるのが見えた。
勘助は塀の上から懐かしそうに糸子の姿を見ていた。
「光っちゃん…久しぶりやな」勘助は光子に挨拶をした。
「勘助ちゃん…」
「糸やんも元気そうやな…光っちゃん…糸やんを…よう助けちゃってな」
「糸子姉ちゃんに…会わんと行くん?」
勘助は黙って頷いた。
「会いたいけどな…俺にはな…資格がないんや、もう。せやけどそれも…やっとしまいや」
糸子は光子が俯いたまま店に戻ってきた事に気がついた。
「何や?また工場で怒られたんか?(笑)」糸子が光子に尋ねた。
光子は首を横に振ると泣き出してしまうので八重子が気がついた。
「光っちゃん…勘助ちゃんに会うたんけ?」
「うん…」光子は頷いた。
「勘助と?なんで?」
「今日…出征やったんや…勘助ちゃん…」八重子は事情を糸子に説明した。
「勘助、来たんか?あんた喋ったんか?」糸子は血相を変えて光子に尋ねた。
「うん…勘助ちゃん遺言みたいな事ばっかり言うちゃった!」
「勘助…勘助!!」
糸子は、店を飛び出し勘助を追おうとするが、その時すでに勘助は電車に乗り岸和田を離れようとしていた。勘助は電車から見える風景を懐かしそうに見ていた。
>結局最後に会う事も喋る事もでけへんまんま…
>勘助の葬式行列が出たんはそのわずかひと月後の事でした。
>勘助…勘助…勘助ぇ…
糸子は勘助の写真を持った玉枝達の行列が店の前を通り過ぎると涙を流した。
【NHK カーネーション第72回 感想・レビュー】
なんと勘助がいきなりのお亡くなりに!!
二日間で何という展開の早さでしょう…奈津は夜逃げするわ勘助再び出征するわで…
明るいドラマだったカーネーションも、かなり暗い様相になってきましたね。
勘助の笑顔も切なかったんですが…電車の中から『さいなら(予想)』って声にならないセリフを言うシーン、ちょっとホロリです。ええ、クリスマスなのに(笑)
勘助が最後、糸子の怒っている姿を見てニヤニヤしていたのはストーカーではなく、最後に楽しいと思える思い出つくりだったんでしょうね。
なんか泰蔵の時に八重子が糸子にそんな事を言っていたのを思い出しました。
で、糸子は八重子の様子をきにかけていれば…と後悔したのかも。
優子は…まだ竹の棒でやってましたね…(汗)