糸子の妹・静子が嫁に行ってから間もなく清子の縁談もまとまった昭和21年7月 ―
小原洋裁店では水玉のワンピースは売れに売れて、糸子は朝から晩までこれしか縫ってないというくらい程の忙しさだった。
その日も糸子が水玉のワンピースを縫っていると店頭に1人の中肉中背の男性が店に訪れ糸子に話しかけてきた。
「こちらの店主の小原糸子っちゅうのはお宅ですか?」
「はい」糸子は笑顔で応対する。
「今日からここでお世話になる松田恵ちゅうもんです」松田は糸子に会釈した。
「…恵て…松田恵さん?男の日とやったんですか?」
「ハハハ、よう言われます。名前見て女や思っちゃったて(笑)」
糸子は妹達が嫁に行く事になったので縫い子が足りなくなる事を考慮して帳場を専門の人間を雇って任せる事にしたのだった。
奥に通された松田は糸子、昌子と千代に自己紹介をはじめる。
「出征前は心斎橋の浪速洋服店に勤めちゃったんです」
「おっきいとこやないですか!」昌子と糸子は驚いた。
「経理や社長秘書のような事をしちゃあたんです。せやから人脈は結構あるんですよ」
松田はホホホと笑った。
「ほうですか。なんか、ええ人紹介して下さいよ」糸子が言うと隣にいた千代が
「せやな!よう頼んどき!この子、娘三人いてるんですけど…そんでもエエッちゅう人…」
と勘違い発言をしたので糸子は小声で千代に注意した。
「お母ちゃん!縁談ちゃう!仕事の話や」
「先生、泉州繊維商業組合て知ってはりますか?そう言う所にもいっぺん顔を出してみたらどないですか?」松田は糸子に組合に行くよう薦めた。
早速、糸子は事務所に連絡を取って行ってみると月会合をしている料理屋を案内される。
>そもそも泉州繊維商業組合ちゅう名前から
>むさ苦しいおっさんらの集まりを想像していたんやけど…想像以上でした。
会合が行われている部屋を覗きながら糸子は思った。
糸子は、なるべく目立たないように部屋に入り席に着くが初老の男性に見つかってしまう。
「あ!着よった!来よった!あんたか?岸和田で洋裁店の看板ぶちあげた女傑ちゅうのは?」「はあ…初めまして!岸和田で洋裁店をやっております小原糸子です」
糸子は立ち上がって、部屋にいる組合員に挨拶をするとパチパチと拍手が起こった。
「わしな三浦ちゅうて貝塚で紡績屋やっとるここの組合長や」
そして三浦は、組合員を一人一人糸子に紹介し糸子は一人一人に頭を下げていった。
三浦は糸子の隣に座っていた比較的若い男性の紹介をした。
「ここにいるのは周防ちゅうて長崎から出て来た職人や。今、わしの鞄持ちしとるんや」
「よろしゅうお願いします」糸子は丁寧に頭を下げたので三浦は笑った。
「今日は顔合わせの場やさかいな、ゆっくり遊んでいってよ!」
そしてそのまま三浦は用事があると、そのまま店を出て行った。
「あの…長崎ちゅうたら九州の長崎ですか?」糸子は周防に尋ねた。
「はい」
「なんでまたほんなところから?」
「おいは長崎で紳士服の職人ばしよったとですばってん…」
「はあ?」糸子が不思議そうな顔をしていたので周防は、もう一度説明をはじめる。
「おいは…」
「『おいは』って自分のことですか?」
「そうです…」周防はもう一度ゆっくり家と店が焼けてしまった事から説明をした。
「そいばってん嫁も子供達も命ばっかり助かったけん良かったって思っととですよ」
「…奥さんも子供さんも無事やったんですか?」
糸子は長崎弁がわからず、周防の言う事をその都度確認した。
「そうです。…長崎弁はわかりにくかですか?」
「いや、うち長崎の人と話すの初めてですから(笑)」
「おいも最初の頃は大阪弁はわかりづらかったです(笑)」
「紅一点!初めて女の商売人が混じるちゅうさかい楽しみにしちゃあたのに…赤い花が来ると思ったらただの里芋じょ。…まあ勘弁しちゃら。ほれ!」
三浦が“やり手”と紹介した北村が糸子の前に座って酒を注ぐ仕草を見せた。
「…お酒ですか?」糸子は北村に尋ねた。
「何や、ひょっとしたら酒飲んだ事無いんちゃうんけ?」北村がバカにしたように笑った。
「ハッ!舐めんといて下さい!うちは岸和田では有名な酒豪で通ってます」
北村は糸子に渡した湯飲みに日本酒を注いだ。
「あんたホンマに酒飲めるんけ?あんま無理すんなよ姉ちゃん!」他の組合員が言った。
「小・原・で・す!…ほな皆さん、末永うよろしゅう!」
糸子は湯飲みに入った酒を一気に飲み干した。
「…あ、うまい…ハハ!うまい!」
>うちは自分がお酒を飲めるっちゅうことをはじめて知りました。
>けど飲み過ぎたら酔っぱらうっちゅうことも知りました。
糸子は誰かにおぶらている事に気がついた。
>うん?どこや?うち誰かにおぶわれてんのか?父ちゃんか?
>あれ?うち…年、なんぼやったっけ?
翌朝、糸子は店の一階で目を覚ますと二日酔いになっていた。
「33歳!ええ年した女が酔い潰れてヨソの人におぶられて帰って来るて(怒)!」
昌子は糸子に大きな声で言った。
「もう…どならんといて!頭いたいのよ…」糸子は頭を抑えた。
「恥ずかしいやら申し訳ないやら…うちらどんだけ頭下げた思てるんです!」
「あ…うち誰におぶられて帰って来たん?」糸子は横で笑っていた千代に尋ねた。
「何や背の高い人や…親切に色々説明してくれたんやけどなあ…何いうてるんか言葉がようわからんで(笑)」
「あ…あの人か?」糸子は周防の事を思い出し、おんぶされている記憶が戻った。
「あー!!!恥ずかし〜!!!」糸子は布団に顔をうずめた。
>あ~あ、どうかもうあの人に金輪際会う事がありませんように…
【NHK カーネーション第82回 感想・レビュー】
一気に出演者が増えましたね~しかも、かなり豪華です。
まず冒頭から相棒の米沢さんでお馴染みの六角精児さんが経理としてやってきます。
キャラ的には米沢さんと大差ありません(笑)
ほっしゃん、演技初めて見ましたが、予想以上に素晴らしかったです。
そして近藤正臣さん!このお方の存在感は、やはりハンパない。
大河ドラマ『龍馬伝』での山内容堂は圧巻でしたよ。
今日は千代の天然なボケ(松田に糸子の婿を紹介してもらおうとする)や糸子が周防の言ってることが理解できずに、その都度確認とるところは、ほのぼのしていて良かったです。
いやいや、それにしても凄いキャスティングの補充ですね。