周防が事務所のドアを開けたので3人は気まずい雰囲気になる。
「ほ、ほな組合長、うちはこんで…」
「そ、そやな…気ぃつけて帰りや…」
組合長・三浦とワザとらしい会話をし、糸子は事務所を後にした。
>それはホンマに“たまたま”でした。
>けどこんなごっつい“たまたま”はそうない…運命っちゅう気が
家に帰る途中、振り返るが周防が追いかけてくる気配はなかった。
>…したんやけど。
― 家の前まで帰ってくると千代が店先で一人感心していた。
「一円。これも一円。へえー!」
「お母ちゃん…何それ?」糸子は千代が見ている小物を見た。
「子供らがこさえやってん。売れたらそのお金貯めてピアノ買うんやて。
直子が縫うたバック、ようできてるでぇ」
千代は小さな可愛い手縫いのカバンを糸子に見せた。
「これ、直子が縫うたん?」糸子は完成度の高さに驚いた。
「ほんでな、こっちは優子が縫うたお人形の服や」
「優子が?…イヤイヤあかん!チビの遊びに大事な店の表貸すわけにいくかいな!」
感心していた糸子だったが小物を片付け千代にまとめて渡した。
優子と直子は学校から帰ってくると千代から自分達の作った小物が全部売れたと聞いて、ますますやる気を出した。
― 夜、糸子は3姉妹が寝ないで何かを作っていたので注意した。
「あんたらまだ寝てへんけ!?さっさと布団敷いて寝りちゅうたやろ!」
「…もうあとちょっと」
「あかん!もうやめ!…あんたら誰に似たんやろ?
お母ちゃんはな、はよ寝え言われたらシャッと布団敷いてさっと寝たもんやで」
糸子は布団を押入れから出すと布団の中に包みがあることに気がつく。
「…邪魔や。…何やこれ」
優子と直子は、その包みの中から自分達が作った売り物を発見する。
「何やウソや。おばあちゃん、ウソついた」
3姉妹はそのまま糸子の敷いた布団に寝転んだ。
― 翌日、糸子は客相手に昨晩の千代が隠した小物についての話をしていると電話が鳴った。
「おかげさまでぇーうちは元気にしてますぅ!」受話器をとった昌子の声が裏返った。
「何のぼせてや昌ちゃん…」
「ちょっと待って下さい!周防さんです!はあはあ…(奮)」
糸子は手にしていた断裁用のハサミをを落とした。
自分の部屋で何を着ていくか洋服選びをするが『ピアノ買うて』と書かれた紙が洋服のいたるところに貼られていることに気がつき、糸子は和服で行く事にする。
糸子が岸和田にある喫茶店『太鼓』に入ると周防が待っていた。
「こんにちわ。怪我したんですか?」
「まあ、大した事なかとですけど…」
周防は足にヒビが入ってしまい治るまでに一ヶ月かかると説明した。
「小原さんが事務所に来とった日、ちょうどあん日に怪我して病院にいく途中に寄ったところやっととです。やっぱい組合長に甘えるしかなかって思たけん、頼みに行ったとです。そしたら…組合長が自分じゃなくて小原さんに雇ってもらえと」
「はあ…え?何で?」
「おいは小原さんは組合長よりもっと迷惑ばかけるけんて言うたとばってん…」
周防は三浦との会話を思い返していた。
三浦『かけたったらええやないか迷惑』
周防『は?』
三浦『人生、そうそうないぞ…惚れた女から好きやて言われるよな事…周防よ、外れても踏みとどまっても人の道や。人の道は外れない為にあるもんや…けど、外して苦しむ為にもあるんや。なんぼでも苦しんだらええ。あがいたらええ。悩んだらええ。
命はな燃やす為にあるんやで。…外れても踏みとどまっても人の道。
…これ五七五になっとんな』
「…ほんで組合長なんて言うたんですか?」
「要はその…まあ迷惑ばかけてもよかっちゃなかかと」
「は?それだけ?」
「ただ自分がこげんして頼みに来たとは組合長に言われたからだけではなかとです。
…小原さんとこで働かせてもらいたかけん。迷惑ばかけるかもしれんばってん…頼むけん」
ポリポリと首をかいた糸子の袖から紙が見えたので周防はとってあげた。
その紙には『ピアノ買うて』とかかれていた。糸子は周防から紙を取り上げ丸めた。
「…わかりました。明日から来て下さい。最初は婦人もの手伝ってもらいながら徐々に紳士もんのお客さん呼んでいけばどないかなると思います」
「ありがとうございます」
― 家に戻った糸子は足を布巾で拭いながら考えていた。
>それがええ事なんか悪い事なんかさっぱり分かりませんでした。
>ただ一つ自分でもようわかったんは周防さんとおれる。
>その事をこの二年間、うちは心の奥でずーっと夢見てたんやなちゅうことです。
【NHK カーネーション第93回 感想・レビュー】
外れても踏みとどまっても人の道…深いですねぇ。
組合長が何で周防にあんな事を言うのか、ちょっと理解できません。
『色々あると思うけど女性から好きって言われる事なんて無いからいいんじゃない?』てな具合に随分と無責任に聞こえなくも無いです(笑)
組合長は過去に何かあったっぽい感じがしましたが、もしかしたらそれが原因なのかも。
昨日も「人の道を外した事もない事もない」みたいな事を言っていたし。
ま、とにかく周防さんの背中を押した組合長、自分の台詞が短歌になっていることに気がついて一人関心するところが面白い。本当にひとごとのよう(笑)
それはそうといつも徹夜して祖母・ハルに怒られていたのに、子供達にしれっとウソを言う糸子…本当にオバちゃんっぽくて笑えました。