電話で妙な話を耳にした会計・松田恵は喫茶店『太鼓』で糸子に話を切り出した。
「うちが聞いたんは先生と周防さんが組んで北村さんを騙したよって周防さんが組合を追放されて、それを先生が囲うてるちゅう話でした…ウチかてアホちゃいます。
先生と周防さんがお金の事であの北村さんを騙せるワケない。
…けど周防さん、ウチで働くようになった経緯も確かに急やった…うちの話も昌ちゃんの話も聞かんと先生が勝手に決めてしもうた…先生、うちはオハラ洋装店が好きです。
先生のことかて尊敬してます。まさちゃんかて店の子らかて皆そうです。
ほんまこの店のこと誇りに思うてんのに…気色の悪いもん持ち込まんといて下さい!」
「気色悪いて…」
「周防さんはええ男ですわ…好きになんのは無理もないかもしれません…けど、あかんもんはあきませんでしょ?他所様の旦那、しゃあしゃあと囲いこむような真似、先生にはせんといて欲しいんですよ!お願いします!!」
松田は店にいる客の視線に構わずに大泣きしてしまう。
>あ~あ…せやけどまあ当たるはずのバチが当たっただけのこっちゃ…
― オハラ洋装店の前には大勢の人間が集まり噂話をしていた。。
「糸ちゃん、聞きたい事あるんやけど…」
糸子が家に到着する寸前、隣の履物屋主人、木岡保男が呼び止めた。
「ごめん、また今度!糸子は逃げるように店に入っていった。
糸子は周防が作業している二階の部屋を訪れ窓を閉めた。
そして作業している周防を後ろから手を回した。
周防もそれまで行っていたミシンの作業を止めて糸子を抱きしめる。
「…おい、店ば辞めましょか?」
「…傍におって下さい。そんだけで…誰にどんな事言われかて耐えられますよって…」
>とはいうたもんの…まさか…まさか、まさか
― 夜、叔父・松坂正一夫妻、勝の弟・亘、実、木岡夫妻、木之元夫妻…小原家に次々と糸子と関係ある人間が集まった。
>うちのバチはまだまだこっからのようです…
「お義姉さん、兄の顔まともに見られますか?」亘は勝の写真を糸子に見せた。
「勝君だけちゃうで善ちゃんもやで?」と栄作。
「あんだけ曲がった事が嫌いな男やった。娘が…しかも一番信頼しとった糸ちゃんが人様の旦那を囲うて…草葉の影で泣いてんで!!」保男が声を荒げる。
糸子は一呼吸置いて静かに返答した。
「…ホンマ申し訳ないと思うてます。けど…2人共もう亡くなってしまいました」
「そう言う事ちゃうでしょ!!!」亘たちは一斉に糸子を批判した。
「糸子、この店はお前の小さい時からの夢やったな…?」叔父の正一が問いかけた。
「そうです」糸子は短く答えた。
「お前はホンマにようやってきた…たった19で自分の力で店開いて…勝君が亡くなってからも女手一つで守ってきた。その店の看板になんで自分で…泥塗るんや?」
「言われてる事はよう分かります…けど、うちは看板に泥塗ったとは思ってないんです」
「周りは皆思ってんのじゃ!」
「義姉さん思い上がりですわ!!」再び一斉に糸子を責める声が上がる。
「すんません!すんません!」千代はひたすら糸子の横で頭を下げる。
― その頃、二階の子供達は床に耳を押しつけ一階の様子を聞いていた。
「…周防さんの奥さんの気持ち考えたことあるか?」保男の妻・美代が静かに質問する。
「わかってます。そらもう本当に申し訳ないと思てます」
「先生!泥塗られてるんは看板だけやないんです!…うちらかて商店街歩いたら指差されるんです!店の事も先生の事も今日までついて来たんです!ちゃんと言うてください!」
縫い子の昌子が立ち上がり泣きながら糸子に訴えた。
「…せやな。…今日皆さんに言われた事、うちが置かしてる罪の重さは全くその通りやと思うてます。ご迷惑かけてしもうてる事も傷つけてしもてる事も、そのまんま受け止めたいと思います…その上でお断ります!」
糸子は続けた
「周防さんにはこのままうちの店で働き続けてもらいます。“ウチ”という人間が信用でけへんという理由で離れて行くお客もあるやろうと思います。けどウチはホンマにしょうもない人間かもしれへんけど…“ウチの店”“こさえてる洋服”“働いてる者ら”には何があっても自信を持ってこれからもやっていくつもりです。…店を守る。お客の期待に応える。従業員の稼ぎを守る。…偉そうな言い方になるけど周防さんとご家族の生活かてうちが守らせていただきます。許してくれとは言いません…許されかてかまいません、ただ…ほんまにすんませんでした」糸子は両手をついて頭を深く下げた。
「…けどなあ、糸子。アンタはそんでええけどなあ、子供らがなあ…かわいそでなあ」
千代が3姉妹の事を不憫に思い涙を流した。
「まず間違いなく子供らは友達に言われてんで?」木岡が口にする。
「子供らがどんだけ傷つくか…もういっぺん考え直してくれるわけにはいかんか?」
「失礼します!」3姉妹が2階から降りてきて守るように糸子の前に並んだ。
「おっちゃん、おばちゃん、…うちらはお母ちゃんのやりたいようにやってもろてエエです。お母ちゃんは絶対間違うたことはせえへん!せやさかいお母ちゃん許しちゃってください 。お願いします!」
「お願いします!」三人は手をついて集まった人達に向けて頭を深く下げた。。
その子供達の姿を見て正一達は何も言えなくなってしまう。
そして糸子の目からは大粒の涙溢れる。
【NHK カーネーション第96回 感想・レビュー】
朝から、なかなかキツイ内容でした。
なんちゅうか…朝からステーキを食べているような『美味しいけど、胃にもたれる』感覚です。とにかく内容がヘビーで…凄い賛否が分かれる内容じゃないでしょうか?
糸子の言ってる事は無茶苦茶ですが…まあ当人だし「みんなが言うなら…」ってタイプだったら最初からしないでしょう(笑)
小原糸子という人間は『男性的な女性』として描かれているので、今日のような糸子の態度、意見は自分はすんなり納得できました。
どこまで脚色されているかは分かりませんが周防さんを囲ってたと言っていた感じはあまりなかったのはNHKの朝の連続テレビ小説だからでしょうか?
糸子と周防が抱き合うシーンを見て組合長の短歌がじんわり来ました。
『外れても踏みとどまっても人の道』by 三浦平蔵