>わるない…何もわるない!
>ここがくびれてフワッと広がる…女を一番きれいに見せる形や。
糸子は北村に提案したスタイル画を見つめていた。
>せやけど…
「あの~サックドレス作って欲しいんですけど」
オハラ洋装店にやってきた2人組の女性客が雑誌の切り抜きを昌子に見せた。
「先生~!お願います。今日も朝から3件もありましたわ。サックドレスの注文」
昌子からバトンタッチされた糸子は笑顔で女性達の注文を受ける。
― 糸子は喫茶店“太鼓”で八重子に相談した。
「こんな不安はじめてや…」糸子は難しい顔をした。
「…全然、悪い事ないで?これうちは欲しいけどな~」
八重子が糸子のスタイル画を見て感想を伝える。
「サックドレスの注文、この一週間で倍に増えて昨日なんか8割超えたんや…
…読み違えた。サックドレスは思てたよりずっと早よ大阪に届いたっちゅう事や」
「この商品はもう仕上がってしもうたん?」
「100着25万円分…今頃、北村が問屋、走り回ってるやろけど…売れてるとは思えへん
…うちやってもうたかもしれん」糸子はうな垂れてしまう。
「まあまあ、糸ちゃん。そない思い詰めなて。あかんかっても取り返したらええやんか」
八重子は糸子を慰めるが糸子の表情は暗いままだった。
「一番ショックなんは、どないしてもサックドレスがええと思われへんことなんや…ウチは…世の中に遅れとってしもうてる…間違いのう…」
― 夕方、糸子が家に帰ると千代達と楽しく夕食を食べている北村がいた。
「おう!」北村は糸子を見ると機嫌よく挨拶をした。
「何や…またあんた来てたんけ」
北村は千代達と楽しく会話をしていたが商売の話が出てこない事に糸子は気がつく。
「…売れへんかったんけ?」
夕食後、店で北村と2人で酒を飲む糸子は静かに尋ねた。
「何でわかんよ?」
「わかるわ、そら」
「3日で15軒回って大口は全滅や…小口も古いや遅れてるや散々言われてわ」
「残った分…全部、買い取っちゃら。…ウチの責任や」
「は?格好つけんなよ。たかがこんな岸和田の小さい店の女店主がよう…お互いの損で痛み分けや、そんでええがな」
「…うちが甘かった。また一からで直し、勉強や…
あんたにはホンマ悪い事したな…堪忍。このとおりや」糸子は北村に頭を下げた。
「…うっわ!うわうわうあ気色悪う…えらいもん見てしもうたがな!
あかんあかん!酒で清めんな偉い事になるぞ!」北村は酒を一気に飲み干した。
― 夏休みに入った直子が友達を連れて帰って来るという連絡が入る。
友達とは例の男の子3人の事で千代はおおいに張り切っているのだった。
「ハンバーグとトンカツとウナギとお寿司をとろか思てんや…」
千代が昌子と糸子に献立を言ってみた。
「多すぎるわ!」
「学生でしょ?ほんなもん芋の煮っ転がしで十分ですよ!」
>なんぼ言うてもお母ちゃんは聞く耳持たず…
「何をどんなけ食わせるつもりや…」
千代が鼻歌を歌いながら用意している食料を糸子は見て呟いた。
「こんにちは。初めまして僕ら直子さんの東京の同級生で…」
オハラ洋装店に直子の同級生3人がやってきた。
「まあまあ!いっらしゃーい!…あれ?直子は?」
糸子は笑顔で迎えるが直子がいないことに気がついた。
「そこの下駄屋のご主人と喋っておられて『先行ってくれ』って言われたもんで」
「そうですか。まあ遠いところをようこそ!ま、あがって下さい」
糸子は直子に構わずに3人を家に案内した。
>このジャガイモみたいなんが斉藤君で、ちょっと大人っぽいのが吉村君で。
>この優しそうなんが小沢君やな。みんな、よさそうな子や。
家に入っていく3人を糸子が観察していると直子が帰ってきた。
「ただいま」
「…………」派手な服を着て厚化粧をした直子を見て糸子が固まる。
「…ひょっとして…え?…直子か?」直子に近づいて顔をまじまじと見た。
「ただいま」直子は、もう一度糸子に言うと友人達に荷物を二階の部屋へ置くために階段を上がって行った。
「何やあんたそれ…何が…どないしたんや一体!?」
>お化けや…お化けがトンカツ食べてる…
糸子は直子がトンカツを食べている姿を呆然と見ていた。
「ところでお母さん、立体裁断されてるて本当ですか?」吉村が尋ねた。
「立体裁断?」糸子は"立体裁断という初めて聞く単語に首をかしげた。
「お母ちゃんの服の作り方や。お客さんの体に直接布当てて切るやろ?」直子が説明する。
「ああ~あれ立体裁断ちゅうんけ?」
「僕らまさにその立体裁断を習い始めた所なんですよ!」
「国内ではやる人はほとんどおらんけど、パリでは、むしろ主流なんじゃそうです」
「ピエールカルダンが来日したときに実演したらしく、実に合理的というんで授業に取り入れる事になったんです」
吉村、小沢、斉藤は立体裁断について糸子に説明した。
「それを我流で始められたって本当にすごいな!
「天才的じゃあ!」
直子は母を褒める友人と喜ぶ糸子を見ていた。
「せっかちなだけや(笑)」糸子は機嫌よく謙遜した。
その後、糸子は直子の友人達の目の前で実際に立体裁断を実演してみせた。
「ホンマ、我流やよって授業のとはちがうかもしれへんで?」
学生達は熱心にノートをとりながら糸子の技を観察する。
「ここは真直ぐ切ったらアカン、ちょっと斜めや。あとで後の布が来るからな…」
糸子が裁断をしながら説明するたびに斉藤達はうなづきながらノートに書き込むが直子だけはノートをとらずに母・糸子をジーッと見ているのだった。
【NHK カーネーション第107回 感想・レビュー】
物凄い熱心にノートを取ってたところをみると直子の友達は遊びに来たというより、直子からきいた糸子の技術とかを見に来たのかもしれませんね。
それと斉藤君達、サンローランやピエールカルダンといったブランドの名前をビシバシだしてきますね。そもそもどこ出身なんでしょうか。
まだ先はわかりませんが、今日、直子が糸子を見つめていたのは、母親としてではなくライバルとしてみていたのかな?北村の懸念した通り?