― 昭和34年、雑誌『令嬢世界』の男版『紳士世界』が創刊された。
「どや?これがアイビーや」北村は着ているアイビーの服装を糸子に披露した。
「ちょっ!恵さん…どう思う?これ」糸子は紳士世界を松田に見せた。
「この頃は男の子でも綺麗な子多いねえ~」松田が男性モデルを褒めた。
「いや、ちゃうねん!服見て!服!」
「服?…綺麗な子は何着ても似合うねえ~」
「…似合うてるかもしらんけどな、エエんかこんなんで男が!」
「は?」北村が目をパチクリさせた。
「男ちゅうんは、“ぴしゃあ”としてんとあかんやろ?だんじり曳かれへんやろ?」
「古いのう!おばはんはよぉ!…アイビーや!これからはそういう時代や!」
>北村が言うには規制の品の世界で急成長しているメーカーが
>とにかくアイビーを押してるんやそうです。
アイビーについて熱く語る北村に構わず糸子は大きなアクビをした。
そんなある日、優子が東京の学校を卒業して岸和田に帰って来る。
「へぇ~次郎ちゃんも結婚するの?」
小原家の夕食の席にいた八重子に帰ってきたばかりの優子が尋ねる。
「そうやねん、おかげさんでな~」八重子が嬉しそうに答えた。
「お嫁さん、別嬪らしいで!」糸子が優子に言った。
「お母ちゃん、来週あたり家に遊びに来たいって言ってる友達がいるんだけどいい?」
優子は照れくさそうに言うと一枚の写真を糸子に渡した。
優子から渡された写真には男前の男性が写っていた。
「見せて!ごっつい男前やんか!」昌子達は写真の男性に興奮して声を上げた。
>昌子、玉枝、八重子、千代…このおばちゃん4人は意味解ってたそうです
「アイビールックちゅうのがエエのう!見込みあるどぉ」北村が満足そうに言った。
>北村でさえ『そういうこっちゃ』と思てたそうです。
「なにも一人だけ来んかて、ようけで来ても家は布団あるんやで?
直子かて、こないだ3人も男の子連れて来てきよったしな(笑)」
糸子がそう言うと一瞬沈黙が訪れる。
「…え?」優子はワンテンポ遅れて聞き返す。
>わかってへんかったのはウチだけでした…
― その数日後
「結婚したいちゅう事ですか?」糸子は優子が連れて来た男性に尋ね返した。
「はい」男性・梶村悟がハッキリとした口調で応えた。
「結婚!結婚!結婚!」糸子の横で聡子が小さく手拍子を打った。
「何なら僕がが岸和田に来てもいいかな思うんです。優子さんがこの店を継ぐ事は僕も賛成ですし、婿入りも親に頼めば許しくれると思うです」
「せやけど…お仕事はどうしはるおつもりですか?」
「それなんですが何かお母さんのツテで紹介して貰えないでしょうか?
大阪を良く知らない僕が自分で探すのは大変だと思うんです」
梶村悟は笑顔で伝えた。
「大丈夫!お母さん顔が広いからツテなんかいくらでもあるわよ」優子が言った。
「いや…ないで?そんなもん」糸子が渋い顔をしながら言い放った。
「は?」
「ちゅうか…まあ、あるとしても無いと思といて下さい。男のお宅がやっと成人して『いよいよ社会出てたろか』ちゅう時に嫁の親のツテなんぞ当てにしたらあきません。
どうぞお宅がホンマに勤めたいと思う会社を自分で探して見つけて下さい。
…そら最初は苦労もあるかと思います。そういう事こそ後の財産になるちゅうもんやのに…先回って取ってまうような真似、ウチは、ようしませんわ(笑)」
糸子は満面の笑顔で2人に伝えた。
― 優子は梶村悟を見送るため家の外に出た。
「ごめんね…うちのお母さんたら本当に頭が固いんだから…」
「気にすんなよ。いいって」梶村は笑顔で言った。
「…泊まって行かないの?」
「やっぱり僕、人ん家に泊まるの苦手だからさ。またすぐ手紙書くよ」
>そら好きなんやったら結婚したらエエ…それも縁や。
>なんぼ気に入らんかて縁ちゅうもんは横から他人が遮ってエエもんちゃう
>良かれ悪しかれ本人が辿れる所まで辿ってる内にいずれ答は出てくる…ほんでエエんや
梶村を見送った優子は家に帰ると2階へ駆け上がった。
「コラァ!降りてこんかいな!仕事や!」
糸子が2階に向かって大声をあげると不満そうに優子が降りてきた。
「気に入らん事があるたんびに2階行ってベソかいてたら商売にならへんのやで?」
「わかってるわよ!」
>優子は結局卒業のときも首席やったそうです。
>講師として学校に残らへんかちゅう話もあったのに
>こないして約束通り岸和田に帰って来てくれました。
>焦らんでええけどな…勉強やで。
糸子は接客に失敗している優子を心の中で励ましていた。
― 東京では糸子の次女・直子が派手な部屋で寝込んでいた。
「直子!」千代が斉藤に直子の部屋の鍵を開けてもらって入ってきた。
「おばあちゃあん!」直子は千代に泣きついた。
「よしよしよし!もう大丈夫やなあ~しんどかったなあ」千代は直子を撫でた。
― 千代は直子と斉藤に卵粥を作って食べさせた。
「味…薄い事無いか?」千代は斉藤に恐る恐る尋ねる。
「いえ、うめえ~です(笑)」
「ほうか!そらよかった。アンタ無理して食べへんかてエエんやで?」
「無理なんかしてへん。美味しいさかい」直子は食べながら答えた。
「あれ?ここは電話ちゅうたらどこからかけれるんや?」
「大家さんとこにありますよ」斉藤が答えた。
「ほうか、あとでお母ちゃんに電話しとかなかな。皆でそら心配したんやで?
『一週間も熱が下がらんてどういうこっちゃ』ちゅうて」
「…ゴメンな。岸和田から遠かったやろ?」
「そら遠いけど来て良かったわ~アンタの顔見れてホッとしたわ」
千代は顔を撫でながら幸せそうに言った。
― 千代と直子は並んで布団を敷いて寝ていた。
「はあ…この部屋神戸箱みたいなあ…」千代は派手な部屋を見ながら言った。
「神戸箱て?」
「そう言う箱がな、昔家にあったんや…神戸の曾おばあちゃんがな、糸子らに、そら素敵なもんをようさん送ってきてくれて…生きていたら、そらアンタらにも色々送ってくれた事やろな~とにかく人に物送るのが大好きな人やったん」
「惜しい事した?」
「ホンマやな(笑)」千代はクスリと笑った。
「…けどウチは…おばあちゃんがおったら十分や…」
「うれしいなあ…」
「おばあちゃん…長生きしてな」直子は涙ぐむのを隠すように寝返りを打った。
「…うん。…任しとき」千代は涙を流して直子の頭をなでた。
【NHK カーネーション第108回 感想・レビュー】
直子は、お祖母ちゃんの千代が大好きなんですね。
そういや、直子が小さい頃(二宮星時代)に千代と布団を敷きながら枕で遊んでいたシーンがあったのを思い出しました。
千代が派手で色んなもの(よく見えなかった)を見て『神戸箱』(参考:第26回『私を見て』)と言ったのが何かジーンときました。不気味だったり意味がわからない物を『素敵なもん』と言って上げる千代、最高のお祖母ちゃんです。是非、長生きしてもらいたいです。
本日、出てきた優子の彼氏、思わず吹き出しました(笑)
それに比べて直子の看病をする斉藤君…いいヤツですね。