>優子が店で大ヘマをやらかして『一人前の道は長い』ちゅう事を学んだはずの日に
>よりによってその電話がありました。
直子の電話に松田と昌子が興奮しているところに糸子が帰ってくる。
「…賞?なんの賞や?」
「装麗賞や…うちが取られへんかったやつや」
代わりに答えた優子は寂しそうに布団を運んで奥の部屋へ行った。
>装麗賞っちゅうんは若手デザイナーの登竜門で
>直子はなんとそれを史上最年少で受賞したちゅうことでした。
― 昭和34年6月、八重子は雑誌に掲載している直子の記事をみて興奮していた。
「糸ちゃん!あんた見せてもうたで!これごっついやんか!」
「なんやドラム缶みたいな服やろ?さっぱりわからへんわ(笑)」
「色んな所から声がかかって、みんな直ちゃん直ちゃんってなるんちゃうか?」
八重子は優子が来たことに気がつき声を小さくしたが
「そらかかってんで!新聞の取材やら来たんやで?
若いお客さんがここは直子さんの服変えるんですか?来るしなあ。
えらい騒ぎじょ!ほんまあん時忙しがった!なあ昌ちゃん!」
糸子は、優子に気づくも普段どおりに八重子に話すのだった。
― ある日、店にかかってきた直子からの電話に優子が出てしまう。
「はいオハラ洋装店です………直子、聞いたで…良かったな!」
優子は相手が直子だとわかると無理して明るく接する。
「うん…おおきに」
「装麗賞取れたんやったら間違いないわ!アンタはデザイナーとして大成する。
姉ちゃんはこの店を地道に守っていくよって、あんたは東京で思う存分やれるとこまでやり。あんたが華々しく活躍するのをうちは岸和田で見守らせてもらうわ。な?」
「…お母ちゃんに代わって」
「もしもし?」糸子が優子から受話器を受け取った。
「何あれ?何でほうけてんよ?アホちゃうか?ウチがちょっと装麗賞取ったくらいであんな不抜けた声で『おめでとう』とか抜かしよって!」
「何がや?何の話や?」
「姉ちゃんや!甘やかしたらあかんで!あの根性なし、どうせ毎日めそめそしてんやろ!
あんまし続くようなら『アホか!シャッキりせい!』ちゅうて怒っちゃってや!」
直子はそう言うと電話を切ってしまう。
「…何でウチがアンタにどやされなあかんねん!」受話器に向かって糸子は怒った。
>直子に言われるまでもなく、ウチもここで変な気遣いは、むしろ毒やと思てました。
>普通にしちゃあたらエエんや…普通に…
「よう!見たど!装麗賞!ごっついやんけ!これ店の一番目立つ所に飾っちゃれ!」
北村が現れ優子に豪華な花束を渡したので糸子はため息を漏らした。
「せやけど笑たで~あの山猿が装麗賞て!お前も鼻高いやろ!孝行者やど!
…おう!お前も負けちゃあったらあかんど!」
北村が優子を励ますと優子は花束で北村叩くと泣きながら店を出て行く。
― 喫茶店“太鼓”で糸子から事情を聞いた北村は気を落としていた。
「悪い事してもうたよ…」
「かめへんて。ここで周りが変に気を遣おうたところでどうなるもんでもない。
あの子が自分で乗り越えるしかないんや」糸子が北村に伝える。
「せやけど…ちょうど良かったわ、これでなんぞ買うてくれ」
そう言って北村は封筒を出した。糸子が中身を確認すると札束が入っていた。
「生地代や」
北村は年末に糸子と共同事業で作った既製品の服が完売したと伝えた。
「売れた?どこに?どこに売れたん!?」
「…それは言われへんわ。いらんこと気にせんでええねん」
― 倒れた妊婦の客の母親が優子に服の礼を言いに店に訪れる。
「おかげさんで娘、あの服よう似合うてましたわ!
ほやさかい今度はうちが注文さしてもらおう思いまして(笑)」
母親が上機嫌で優子に話すのに対して優子は表情を暗くしたままだったので
たまらず糸子が接客を交代させ昌子に任せた。
「ちょっと」糸子は怖い顔をして店の裏に優子を連れて行く。
「…もう店なんか出んでええ。お客にあんなしみったれた顔しか見せられんやったら
店なんか出な。商売の邪魔や」糸子は一喝して店に戻っていった。
― 優子が家に戻ると松田恵がテレビを観ている。
「恵さん…何さぼってんの?」
「さぼってへん。先生がええいうてくれたんや」
「あ、春太郎や!」テレビに映っているのが春太郎だと優子が気がつく。
「もう春太郎ちゃうよ。こないだ中村冬蔵を襲名しやったんや」
「うちな…小さい頃、おじいちゃんによう歌舞伎みしてもうたわ…その後でお母ちゃんが何や怒ってはった。なんや知らん『春太郎が嫌いや』ちゅうてな…」
「シッ!!」松田が凄い形相で注意した。
「…春太郎も面白い!アハハハ!(笑)」
ガタン!松田と優子は笑っていると凄い勢いで扉が開き糸子が優子を睨んだ。
「何してんや…そんな所で。誰がテレビなんか見ぃちゅうた!?
店出るなちゅうんはな、裏でテレビでも見とけちゅう意味ちゃうんや!」
「…ほな、何してたらええんよ!?どうせウチには直子ほどの才能も無い!
店に出たかて迷惑ばっかりかける!どないしょうもない役たたずの邪魔者よ!
テレビ見て笑てる以外、やる事なんかないやんか!」優子が叫んだ。
パシン!糸子は優子の頬を平手打ちをすると頬をつねった。
「どの口が言うてんや!ああ!…このアホが!ひがむんもええかげんにせえ!
東京の学校まで行かさせてもうて何不自由のう暮らさしてもうて!」
「ほっといてよ!どうせうちはアホや!役立たずや!」
「原口先生があんなけアンタを認めてくれたちゃったんちゃうんけ!
お客さんがあんたのためにまたきてくれたんちゃうんけ!
それが見えへん目はどんなけ腐ってんや!!」
「お母ちゃんにうちの気持ちなんかわからへんねん!」
2人は松田と昌子が止めるも揉み合いになってしまう。
>ちゅうちょっとした騒動があったんで、なんぞ聞きつけたご近所が
>変な気回して呼んだかと思いました。
「こんにちわ。岸和田警察のものです」2人組の男性が警察手帳を糸子達に見せた。
糸子は怪我をした小指をサッと隠した。
「小原糸子さんという方はおられますか?」
「はい…うちですけど」
「一昨日、6月10日、北村達雄を逮捕しました…その件でお話を」
店は騒然となった。
【NHK カーネーション第110回 感想・レビュー】
直子が受賞したと聞いて、その賞が『装麗賞』とピーンとくる優子。
かつて絵のコンクールで佳作しか取れなかった賞で直子が大賞をとった事が頭をよぎったんでしょうかね。優子の落ち込みがハンパありません。
何の用事で直子が電話をかけてきたかは不明ですが、たぶん優子の様子を聞こうと思ったんだと思います。直子としては、『家を継ぐため』とか、いきなり逃げ出した優子が服の世界でも弱腰になるのでは?と心配したんでしょうか。
直子としてはライバルとして対峙して欲しいと思ってるのかな?
それはそうと、テレビを観て笑ってる優子の姿がいたたまれない感じが出ていて涙出そうになりました。ここから挽回してほしいです。
北村は糸子のために?