昭和35年5月―
4月から東京の百貨店で店を始めた直子が毎晩の様に電話をかけてくる。
千代は直子が東京でへこんでいるのではないかと心配する。
「アンタ、いっぺん東京に様子見に行ったったらどないや?」千代が糸子に言った。
「ウチが!?あのへそ曲がりがウチが行くちゅうてホイホイ喜ぶかいな!」
>ところがものは試しに次の日の電話で…
「久しぶりに東京に行ってみたいし観光ついでにあんたの店も見てみたいしな」
糸子が直子に伝えると
「うん。ええよ、うちは」と意外な返答が返ってきた。
>こら、よっぽどへこたれてるに違いありません。
この頃完成した新幹線こだまに乗り、糸子は銀座の百貨店を訪れた。
直子の店の前に着くと糸子はショーケースにあるオブジェを見て顔をしかめた。
その時、スーツを来た中年男性が険しい顔で店に入って行った。
「小原君!言ったろ!この鉄くずを下げたまえ!」
「…いや、けどこれは!」
「いいから下げなさい!アートだがなんだか知らんが汚らしい!ここは百貨店なんだよ?
もっと品のある店作りをしたまえ!」男性は、そう言うと踵を返して店を出て行く。
直子は不服そうに片付けようとすると
「だから言ったのにね。ハハハハ(笑)」直子の後ろで女性スタッフが笑った。
「またあとにしようか…」
直子の様子を見ていた糸子は店に入るのを一旦諦めた。
>そない思て店を一回りして戻って来たら
直子に鉄くずを片付けるように言っていた男が直子を再び注意していた。
「また怒られてるわ…しゃあないな…」
>ほんなこんなで百貨店が三周ほどしてから
「おかあちゃん!」直子は店に入ってきた糸子に気が着いた。
「はあ~やれやれ!やっと着いたわ~」
「えらい遅かったな、どっか寄っちゃったん?」
「うん、ほんなこともないけどな…せやけどアンタ!ホンマに立派な店やんか!」
「…まあな。上司もうちの才能認めてくれてるよって好きにやらしてもうてるわ」
すると若い一人の女性客が不機嫌な表情で店に入ってきた。
「こないだパンタロンを作って貰ったんだけどね…作り直して!」
女性は手提げから服を直子に突き出した。
「え?どうしてですか?」直子が理由を尋ねた。
「歩きにくいったらないんだから!よくこんな不良品でお金取れるわね!
どういう神経してんの?信じらんない!」
― 直子は、つき返された衣類を呆然と眺めていた。
「見せてみ!」糸子が言うと直子は仏頂面で渡した。
「…アンタ、こら無茶や。別珍をこんな縫い方して…こんなとこにポケットつけたら、そら歩きにくいわ!とりあえずこのポケット取り!ほんでな…ここを…」
「ふん!分かってへんなあ、お母ちゃんは…そのポケットが肝心なんや。
このデザインはこのポケットがついて初めて完成するんや!」直子は涙をこぼした。
「アホか。ポケットで服が完成するかいな。服ちゅうんはな、買うた人が気持ちよう着て初めて完成するんや!ほれ!やり直し!手伝うちゃるさかい…」
― 夜、糸子は直子の下宿先に行き集まった直子の友人達のために寿司の出前をとる。
「ありがとうございます!」源太達が糸子に礼を言った。
「ええて!若い子らにお腹いっぱい食べさすんがオバちゃんらの役目やさかいな」
酒も入っている糸子は上機嫌に笑った。
「そう言えば直子、俺のオブジェ評判どんなだ?」源太が直子に質問した。
「アホの支配人に『汚い鉄くず置くな』言われて片付けた」直子は正直に答えると
「分かってへんな~支配人!」
「お母さんには分かってもらえますか?」
「いや~…ウチにも鉄くずにしか見えへんけどな…」糸子が言うと笑いが起きた。
「ほんでもオバちゃんもこの頃ちょっと賢こなってな…若い子のやる事は自分には分からんからて間違うてるとは限らんちゅうことを覚えたんよ。
要はな外国語みたいなもんなんや…ウチには解らんでもそれで通じ合うてる人らがいてることはわかってる。相手がどんくらい本気か、気持ちを込めて言うてるかちゅうんも何とのう解るもんなんや!…あの鉄くずは『本気なんやな~』思てたで!」
その糸子のコメントに源太や吉村が盛り上がった。
そして源太と吉村は世界中に自分の服を着てもらいたいという夢を語った。
「うちは東京を今のパリみたいにしたい。東京が流行の発信地になってパリのデザイナーが
コレクションを開きに来るくらいになったらオモロい!」直子も目を輝かして夢を語る。
「ふーん…世界か」糸子は夢を聞いて嬉しくなる。
>若い子らの夢の形は思てもみんほど広々と、どこまでも高うて
>聞いてるこっちまで飛んで行けそうでした。
>夢は大きい程壊れやすいかもしれんよって…どうか守っていけるように
>とりあえず、おなかいっぱい食べさすんが、やっぱしおばちゃんらの役目やな。
岸和田に帰った糸子は千代と直子の友人達に食べ物を包んで送る事にした。
― ある日、糸子と聡子は北村に呼ばれ喫茶店“太鼓”にやってきた。
「何や?話て」糸子は先に来ていた北村に尋ねた。
「聡子をワイに預けへんけ?…聡子を一流のデザイナーに育てちゃろ思てんねや」
北村はプレタポルタをやりたいと考え色々当たってみたものの、有名なデザイナーは既に契約済みで上手く行っていないことを説明した。
「そこでや…今の有名どころと組まれへんかったら、逆にわいが若いもん集めて一流のデザイナーに育ってちゃったらええんじゃ!」
「ほんで…聡子け?…アホか!あんたな…手当たり次第もええとこやな」糸子が呆れた。
「こいつかてお前の娘や!素質かてあるやろ」
すると北村と糸子の話を黙って聞いていた聡子が口を開いた。
「けど、うち…」
「興味、あるか!?」北村が尋ねる。
「うん!無い事無い!」
「あかん!!この子は洋裁なんかせえへん!」糸子は強い口調で言い放つ。
「なんでや!今、興味あるちゅうて言うちゃったやろ?!」
「あんたなデザイン画の一枚でも自分から描こうとした事あるけ?そんな甘いもんとちゃう!中途半端、言いな!…おっちゃん!ホットケーキまだ!?
「堪忍や~!案外これ焼くの難しいんやし」新しくマスターになった木之元栄作が謝った。
糸子が北村を睨む横で聡子はうつむいていた。
【NHK カーネーション第113回 感想・レビュー】
直子の店にいた女性二人は店のスタッフなんでしょうか?
なんか感じ悪いこの上ないのですが…それよりも直子が自分の服についている網目の飾りに顔を埋めて落ち込む姿が、なんか可愛い(笑)
糸子が東京に行って寿司(松)を源太達のために注文する(刺身を食べながら)のを見て、結局、前回、千代が東京で5000円使ったことを理解したんでしょうね。
それと北村は何で聡子なんでしょうか?優子は嫁に行ったから?
まあ、糸子じゃなくても「手当たり次第か!」ってなると思う。
そんな中、喫茶店を継いだ木之元夫妻がぎこちなさ過ぎで、相変わらずの笑いを提供してくれていいですね~。