>とにかく上機嫌が身上やった勝さんの血を一番引いてんのが聡子で上の2人が
>とっ組合いをしてる横でいつもヘニョヘニョ笑てるような子やったさかい
>聡子の事を格別何か心配したっちゅう覚えがありません
>そらまあ、そないシャッキと出来のいい子とはちゃうけど…
昭和37年7月、朝 ―
「いってきまーす!」オニギリ片手に聡子は家を出て行った。
「…聡子はアホやけど上の2人と比べて気だてのええんが何よりやな」
聡子が上機嫌で出て行くのを見送ると糸子が千代に言った。
「アホとちゃうで!あないテニス頑張ってんさかい!
今度は大阪府大会出るちゅうてたしな!」
「…それに比べて上の2人の小難しい事!」糸子はオニギリを勢いよく口に入れた。
>小難しい2人のうちの上の方はこないだから店に復帰しました。
>近頃、流行の産休明けちゅうやつです。
「あんた、里恵をホンマに保育所預けて来たんけ?」
久しぶりに店に出てきた優子に糸子が怪訝そうに尋ねた。
「うん」当然といった表情で答える優子。
「何でやねん!かわいそうに。店連れて来たらええやんか?」
「あの子おったら仕事に集中できんて言うてるやん」
「アンタが見んかて、おばあちゃんかて、いてるやろ?」
「おばあちゃんかて大変やんか!年なのに無理さしたらウチが気になるんや」
>ほんで小難しい下の方は…
― 東京の百貨店内、直子の店
「何なのよ?私のやり方に不満があるならさっさと辞めればいいじゃないよ」
直子が2人の従業員を睨みながら言うと2人は何も言わずに辞表を2枚机に叩きつけ店を出て行ってしまう。
>とうとう一人ぼっちになってしもうたそうです
直子は机の影に隠れ、泣きながらオハラ洋装店に電話をかけた。
「ただいま!」聡子がスキップをしながら帰宅する。
居間では糸子達が直子のことについて話し合われていた。
「あの子もここが勉強のしどこっちゅうもんやろ?そら我張ってるだけでは誰もついてきてくれへんわ」糸子が口を開いた。
「いや先生…理屈はそうですけど、今はとりあえず直ちゃんを助ける方法を考えちゃった方がええんとちゃいますか?店員がいっぺんに2人も辞めてしもうたら偉い事ですわ…」
泣いてる直子からの電話に応対した松田が心配そうに言った。
糸子や松田が深刻そうに話し合っていたので聡子は手にしていた賞状を後ろに隠した。
「せやけど、助けるてどないして助けんや…」糸子が頭を抱える。
「とりあえずウチから助っ人を送り込むとか…」
「はあ~今、誰か行ける者…ウチ、行けるやろか?」
「いや先生は行けませんよ!こんなけ仕事詰まってんのに!」昌子が声を荒げた。
「…縫い子でそこそこ接客もできる…うーん」
「ウチですやん」昌子が言うが
「いや…うちや!うちが行く」優子が手を挙げる。
「アホか!里恵、どないすんのや?」すぐさま糸子が孫の里恵を心配した。
優子は里恵も東京へ連れて行き、夫の実家に預けたり何とでもなると優子は説明する。
「悪いけど、直子をホンマの意味で手伝える人間はウチだけや。
正直、お母ちゃんとか昌ちゃんでは無理やと思う」
「…何ィ?アンタ、どう言う意味や?」糸子が顔をしかめた。
「そういう意味や。せやけどホンマの事のやさかい言わしてもらう…」
優子は昌子や糸子達では直子の服を理解することは出来ないことを指摘した。
「…アンタかて結婚式の時あの子の格好、オウム呼ばわりしちゃあたやないか!」
「うん。常識で言うたらオウムや。
けどあれがあの子の才能の形でそれは凄いもんなんや…悔しいけど」
聡子は直子を褒める優子を驚きの表情で見つめた。
「直子が今、あの年で東京みたいな厳しい街で『何をやろうとしてんのか』よう解かんねん。それがどんだけ難しい事か。あの子が求めて苦しんでる理想がどんだけ高いもんかをホンマに分かって手伝うてやれんのは、ウチだけや…」
優子の言い分に誰も反論できずに糸子達は静まり返る。
「…お願いします。うちを東京へ行かせて下さい!」優子は糸子に頭を下げた。
「知らん!勝手にしい!…聡子、御飯、食べり!」
糸子は立ち上がってどなると部屋を去るのだった。
―夜、千代は優子と里恵に別れの挨拶をする。
「里恵ちゃん、あんた東京にいくんやな~」
千代はひ孫の里恵を撫でると、持っていた包みを優子の鞄に入れた。
「アンタだけにとちゃうよって遠慮したあかんで。直子に鰻でも食べさしたり」
優子は千代が渡したのがお金であると察して礼を言った。
「気つけてな。里恵ちゃん風邪ひかんようにな」
「もういくわ。おおきに」優子は里恵を抱きかかえながら店を後にした。
>言いよった…あいつ。ウチでは、もう直子の役に立てんちゅうて言いよった。
ああ~!半人前が!なんじゃ!あいつら!あんな中悪いくせに!うーん!
糸子は酒を飲むと横になった。
「聡子。あんた直子の服、格好ええと思うか?」
「うん」糸子の横で夕飯を食べていた聡子が答えた。
「思うんか!?」糸子は意外な聡子の返答に飛び起きた。
「うん!ウチもあんなん着たい」
「…ウソや!うそつき!正直にあんなん変やて言い!」
― 東京の百貨店では店員が一人になった直子が店の前でビラを配っていた。
直子がビラを渡すも客達は直子の店の服を小ばかにしていく。
「いらっしゃいませ…」足音に振り返ると里恵を抱えた優子が立っていた。
直子は、優子を見て涙をポロポロと流してしまう。
― 早朝、千代が仏壇を開け、落ちていた賞状を仏壇の上に片付けた。
>それがテニスの大阪府大会優勝の賞状やっちゅうんが
>判ったんは、随分、後の事でした。
【NHK カーネーション第114回 感想・レビュー】
子供も産まれて、一気に成長した優子、最後の直子と対面するシーンでは、優子の微笑みにちょっとホロリとしてしまいました。
直子の才能を認め「悔しいけど」と言う台詞が心に残りました。
これから直子と優子が協力して東京で成功していくんでしょうかね?
それと糸子の優子に対する切れっぷり…久しぶりに巻き舌の糸子登場です。
まあ、あれだけハッキリ言われたら流石に実の娘でも頭にくるだろうし、何より自分が理解できないと図星だったことに腹を立てたんでしょうね。
ほっしゃんは、直子の服は理解できてるんでしょうかね?