- 昭和48年1月 喫茶店"太鼓"
「ロンドン?先生なんでそんなもん許してまうんですか!?」
恵と昌子は身を乗り出して糸子に尋ねた。
「聡子が…あの怖い姉ちゃん2人にギャンギャン言われて、何にも言い返せんとジーッ下向いちゃったんや。そら見てたら可哀想で…こっちもカーッとなるがな。わかるやろ?」
糸子は同意を求めるが恵と昌子、カウンターで働く木之元栄作まで溜め息をついた。
「…ほんで、つい言うてしもうたんや『ロンドン行けて!』」
「また要らんとこで格好つけるさかい…」恵がガッカリしながら言った。
「格好つけたわけちゃうて!…でも行きたいちゅうんやさかい行かせてみてやな…アカンかったら戻らせたらええがな(笑)」
「…けど万が一、向こうでモノになって戻って来んかったらどないすんですか!?」
「そら…そん時やろ。でけるとこまでやって…後はうちが畳むがな。それしかないやろ」
三人はオハラ洋装店に戻ってくると糸子は店の看板を見上げて溜め息をついた。
>うちの大事な看板は結局、みんな要らんらしい…
― 糸子は泉州繊維商業組合の事務室を訪れ、三浦に新年の挨拶をした。
「…すんません、組合長。新年早々お恥ずかしい話なんですけど…
実はこないだ言うてた三番目の娘が跡継ぐちゅう話
あれがちょっと結局…どないかしましたか?」
糸子は三浦が呆然と糸子の座っている椅子を眺めていた事を不思議に思った。
「…そこな…今の今まで周防が座っとったんや」
「!?」糸子は慌てて席を立った。
「ほんのさっきまでの話やねんけども、いや…あいつ、長崎へ戻るちゅうて。
アイツとこもやな…子供がみんな独立してるし、カミさんしんでアイツ独りや。
そういう風になったら生まれ育った所に帰りたい…そう言うとった。
長崎の田舎に一軒家買うて畑かなんかやりながら暮らすんやて。ハハハ。
…どないしたんや?」
三浦は糸子の目から涙が出た事に気がついた。
「…寂しいないですやろか?そんな独りで…また新しいとこで…」
糸子が涙を零しながら小さい声で三浦に問いかけた。
「寂しいない…かも…しれんけどや…もう心配しちゃんな!
ほれ、あいつは自分で選んだ道や。周防は人間がええさかいな。どこ行ってもちゃんとやっていきよる。第一あんな男が独りで暮らしててみ近所のおばさんらも世話焼きにきよるぞ
泣いちゃる事ない!」
三浦はもらい泣きを必死で堪えながら言った。
― 喫茶店"太鼓"で聡子と北村は座っていた。
「ほなホットケーキ3つや!」
「…何で?3つも」
「お前どうせ2つ食うやんけ(笑)」
「食べへんよ!そない食べる歳ちゃうよ(笑)」
「…なんや寂しいのう」木之元栄作と北村が落ち込む
「いや…そんな言われても食べられへんし…」
「ほな2つで…」北村は寂しそうに注文をした。
― ホットケーキを綺麗に食べる聡子に北村は質問をした。
「お前、ほんでよロンドン行ってどこで何すんよ?」
「…まずは英語の学校行ってな、働けるとこ探す」
「アテはあんのけ?」
「アテはないけど…洋裁の腕はあるよって」聡子は笑顔を見せた。
「お前、大丈夫け?ホンマに…」
「ウチ、こんなんやけど日本でもどないかなってるし。ロンドンでもどないかなると思うねん。犬がどこでもくらせるのと一緒や!」
「…とうとうお前もどっかいってまうんけ」
「寂しいん?」
「アホけ…何でわいが寂しいんや」
からかう聡子に北村は真剣な顔で尋ねた。
「…お前のオカンよ…好きな花、何や?」
― 小原家の居間では糸子と北村の2人が酒を飲んでいた。
部屋の片隅にある花瓶には赤いカーネーションが飾ってあった。
「ほな、すんません。お先に休まさしてもらいますよって」千代が北村に言った。
「お母ちゃん、ゆっくり休んでよ。おやすみなさい」
「…で、何や?なんか話あって来たんやろ?」
千代がいなくなったのを確認して糸子が北村を睨んだ。
「…優子からよ…ワイとライセンス契約するちゅう話聞いたけ?」
「聞いてへん…ホンマけ?」
「店開く時にそれが前提の融資やら冗談で言うちゃったら小原優子の名前がホンマに売れたさかいのう…冗談やのうなったわ」
「ふーん、結構なこっちゃ」
「来年あたり東京出るど」
「誰が?優子が?」
「優子と…ワイも」
「ほんなん何も聞いてへん。悟さんはええて言うてんかいな?」
「うん…その前にあんまし上手い事いってへんどあっこ」
「やっぱり、ほうかいな…道理で今年の正月、悟さん顔見せへんかったしな
気にはなっちゃったんや」糸子は台所の鍋で暖めていた熱燗を取った。
「優子の方はよう…『もう別れたい』言うちゃった」
「熱!ホンマかいな!?」
糸子はカーネーションの花を見て、次に北村を睨んだ。
「あんた…何で急に花なんか持って来てん?
わかってんや…ウチはな、昔から人より疎いよってこういう事に。
せやけど…アンタらウチの目をぬすんで何ちゅうことを!おお!?」
「お前、なんか勘違いしてへんけ?…ワイと優子はできてへんど?」
「え?そうちゃうんかいな?」糸子は目を丸くする。
「アホけ!!何でワイが優子とできなアカンねん!気色悪い!」
「何や!ちゃうんかいな、よかったわ~(笑)」糸子は笑いながら体を横にした。
「何もわかってへん!この花はよ…この花は!…お前に買うてきてんど!」
「…え?…おおきに」糸子は体を起して北村に礼を言う。
「…お前…長崎行けへんのんけ?」
「行けへんわ…行くかいな…」
「ほな!ワイ!!!…ワイと東京行けへんけ?」
「東京?何しに?」
「『何しに』…仕事や。決まってるやんけ。東京の新会社の副社長になって欲しい…社長でもエエど…お前がそっちの方がやりやすいやったらよう…」
「うーん…」糸子は腕組みをした。
「おおきに。そら、おおきに。…ちょっと時間くれるか…考えさしてもらいます」
糸子は自分のお猪口に酒を注いだ。
【NHK カーネーション第125回 感想・レビュー】
今日のヤフーニュースに『尾野真千子 俳優の高橋一生(31才)と同棲』とか書いてありますね~。高橋一生といえば、ドラマ『名前のない女神達』というドラマで夫婦役してた記憶があります。そうですか~ほうほう。お幸せに。
さて、ドラマの方はというと、ほっしゃんが抜群にいい味を出してます。
途中「レ!…ライセンス契約」って噛んでますが、それが逆にリアリティあっていい感じになっているのが不思議。
今日は、最初から最後まで糸子中心にドラマが展開していたので、カーネーションらしさが出ていた回でした。尾野真千子さんが今週、交代するのはやはり寂しいですね。